榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
大和悠河の持ち味いきる青春活劇『A/L アール―怪盗ルパンの青春』
宙組梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演初日(3月15日)
『A/L アール-怪盗ルパンの青春-』
新生宙組のプレお披露目が始まった。大和悠河と陽月華のコンビにとって初の顔見せ公演である。タイトルが怪盗アルセーヌ・ルパンからとっていることや、ポスターのイメージから、ドラマティックなサスペンスを予測していたが、幕を開けたら意外にも、現代劇に近い楽しい青春活劇という感じに仕上がっている。
物語の背景は19世紀末のパリ。ある貴族の館で首飾りの盗難事件が起きる。そのために館を追われた女中とその息子ラウルは、10年後、ソルボンヌ大学の秀才となって、街の人気者になっていた。彼が世話になっている乳母のビクトワールは作家で、彼女の「怪盗紳士」はベストセラーとなり、主人公のアルセーヌ・ルパンは、アイドルのように国民に愛されていた。だがその本が発売禁止になり、ラウルは叔母を助けるため、またこの件を仕組んだ一味に復讐をするため、アルセーヌ・ルパンになることを思いつく。そのなかで貴族の館で仕えたアニエスに再会し、お互いに思い合っていたことを知る。
青春活劇という基本のなかに、アルセーヌ・ルパンという怪盗が現れた必然や、貴族一家のなかにある確執、親子の情愛などの人間関係なども無理なく描き込まれている。また、ストーリー上の大きな破綻もないから、娯楽作品として十分楽しめるものになっている。それに結末を安易なハッピーエンドに終わらせないところも、かえって余韻を残している。
ただ、構成上の問題として、場面展開のベースにある大学の仲間たちが、うまく生きているところと、ただの賑やかしに終わっているところがあり、期待できるメンバーを使っているだけに、もう少し1人1人の見せ方、出し方に工夫があれば、かなりグレードの高い作品になっただろう。
大和悠河は、バウや青年館の主演などで、真ん中に立つ経験は豊富なだけに、よけいな力みや気負いがなく、役を楽しそうに生きている。齋藤吉正作品ならではのアニメ的デフォルメやスピード感を味方につけて若さと勢いがあるのも、この作品の主役にはふさわしい。
ルパンとして登場するシーンの思い切りのよさや、ラウルとしての優しさなど、彼女の持ち味のいい部分を見せられる作品に出あえたことは、なにより幸運だろう。歌はまだ課題が多いが、ここまで歌の数が多いのだから、本番で歌いこなしていく努力と成果をしっかり見せてほしい。
幼なじみの貴族令嬢で、アニエスに扮する陽月華。大和との並びは初めてとはいえ、違和感なく、どんな衣裳も現代風テイストで着こなすところなど、大和とセンスが共通なのが強みだ。
星組では個性的な娘役にも見えたのが、宙組にきてナチュラルな柔らかさと可憐さが表に出ているように見えるのは良い変化だ。得意のダンスシーンになると一層華やかさが増すが、大和とともに歌はこれから。公演ごとにきちんとレベルアップしていかなくてはならないだけに、さらに努力をしてほしい。
物語の出演者は大ざっぱにいうと2つに分かれていて、大和扮する大学生ラウルの仲間たちと、ラウルが復讐しようとする貴族一家の周辺の人々がいる。その2つのグループの面々が、それぞれに自分たちの役柄をふくらませようと工夫していて、物語全体を引き上げる力になっているのが頼もしい。そして、役柄からはずれなければ、見せ方には幅と余裕がありそうな舞台だから(装置も衣裳もセリフもしばりが少ないので)、まだまだ面白く演じてくれそうだ。
個々の出演者たちとしては、名探偵シャーロック・ホームズ と助手のワトソン の北翔海莉と春風弥里コンビが、狂言回し的に明るく笑わせて印象的。またガニマール刑事の初嶺麿代はこれが最後の公演で、男役をきっちり演じている。ラウルを追い出したスーピーズ伯爵夫人の鈴奈沙也は気位高く、夫の伯爵は夏大海が人間的に見せている。また彼らを金で支配するレオン公爵の悠未ひろは、色の濃い儲け役。優しいラウルの母アンリエットは専科から光あけみ、乳母で作家のヴィクトワールは美風舞良が知的で適役。ラウルの父にあたるローアン枢機卿 の十輝いりすは、色気と愁いが出てきた。
キャンパスで賑やかなメンバーは早霧せいな、 和音美桜(カゲソロが素晴らしい)、華凜もゆる、麻音颯斗、妃宮さくら、萌野りりあ、雅桜歌、 琴羽桜子、 百千糸などで、それぞれ一色加えて見せようという意欲が見えるし、弾け方が楽しい。だがこのグループとともに登場し、もっとも笑いを誘うのが、ドクトル・ゴッズの寿つかさ。この人のかわいいトボケぶりは今や至芸といっていいだろう。
そのほかにも、ジャコ刑事・七海ひろき、若き日のアンリエット・ 鮎瀬美都、子供時代のラウル・ 美牧冴京とアニエス・ 千鈴まゆ、貴族側のミレディ・ 花露すみか、ジル・ 颯舞音桜などのキャストも入れて宙組は26人。まだ組の3分の1のメンバーだが、そのエネルギーはなかなか強力で、新しい宙組が動き出したという空気を感じさせてくれる。
フィナーレナンバーは、モノトーンの現代風な衣裳でかっこよくキメる大和・陽月コンビ。齋藤吉正の現代感覚がうまく2人にマッチして、いいスタートを切った。そして、これからの宙組カラーの1つに、明るく楽しくポップで優しい、こういうラインが加わったことは何よりの収穫だろう。(文・榊原和子/写真・平田ともみ)
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◆宙組公演◆
la comedie musicale『A/L アール-怪盗ルパンの青春-』
作・演出/齋藤吉正
・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ公演(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:2007年3月15日(木)~27日(火)
・東京特別公演(日本青年館大ホール)(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:2007年4月1日(日)~8日(日)
・名古屋特別公演(中日劇場)(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:2007年4月13日(金)~15日(日)
投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2007/03/20 14:07:27 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (0)