榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
蘭寿とむ主演の宙組バウ『NEVER SLEEP』は大人っぽく小粋な仕上がり
宙組バウホール公演
バウ・ミュージカル『NEVER SLEEP』
宙組が次々と新しい顔を見せている。
『NEVER SLEEP』は、蘭寿とむ主演のバウ・青年館公演だが、主演者の資質だろうか、美郷真也組長と3人の専科の力が大きいせいだろうか、大人っぽく小粋な仕上がりになっている。どこか、和央ようか時代の正塚晴彦作品の趣きもあって、大和悠河主演の『A/L アール』と好対照。ともに宙組のこれからの方向性を決めていく大きな色合いという意味では、どんなふうにこの2つの色がミックスされていくのか、ちょっと興味深い。
物語は禁酒法の時代のNY。ピンカートン探偵社のサミュエルは、華々しい犯罪捜査とは縁がなく、浮気調査のような興信所並みの仕事に疲れ、やる気をなくしていた。その日も、クラブの女性ダンサー、ブリジッドの警護という、あまり気乗りのしない仕事を命じられ、相棒のニューヨーク市警の老警官ジェイムズとともに店に乗り込む。そのクラブには、賭博王ロススタインの妻が夜の市長ジミー・ウォーカーと連れだって踊りに来ていた。その晩、ブリジッドのガードで尾行したジェイムズが殺される。そして、犯人として疑いがサミュエルに向けられることになった。
大野作品の面白さは、最近の『フェット・アンペリアル』や『ヘイズ・コード』、また、初期の『更に狂はじ』や『月の燈影』もそうだったように、大きな背景としての時代の歪みと、そのなかで生きる個人のアイデンティティの問題を、うまくシンクロさせていることだろう。
今回は探偵劇なので、どこまで具体的にストーリーに触れていいのか難しいが、時代背景には禁酒法という悪法と、それを利用して肥え太る社会の巨悪がある。そしてその巨悪と闘うはめになるのが、スーパーマンでもなければマッチョでもなく、ドジも踏めば騙されもする、ごく普通の青年である、というのが見どころなのだ。
そしてそんな非力で小さな人間が、1つの事件を通して自分の価値や生きるべき方向性を見つけ、少なくとも事件前よりは少し大人になり強くなって、次の場所へと歩みだしていく。そんな結末は、闘いそのものの勝ち負けを超えて、人生のちょっとした勝利を感じさせてくれて、希望とか勇気とか、そんな言葉の熱さを思い起こさせてくれる。
主演の蘭寿とむの、トレンチコートでキメキメに現れるオープニングは、作り込んだ男役の魅力で勝負する花組出身ならではのかっこよさ。物語が始まると、相当ドジな探偵ぶりを発揮したり、決して二枚目キャラではないのだが、心根の優しさや包容力でいい男に見せている。スーツの着こなし、ダンスの動きの綺麗さ、芝居の間のよさ、どれも主役として十分の見せかたで、はまり役。あとは歌唱力をさらに磨くことが課題だろう。
相手役のブリジッドの美羽あさひは、ダンサーだが実は…という、ワケありの役で、そのへんはニンに合っている。ダンスはもともと安心な人で、スタイルがよく、衣装の着こなしもいいのだが、髪型によってかなり損をしている気がするので、そちらのセンスを磨いてほしい。
この芝居でいちばん儲け役は、七帆ひかるのマイルズかもしれない。地方検事補くずれのエリート・オプ(調査員)だが、彼なりの正義感や屈折を抱えていて、主人公にさまざまな局面で対峙していく。この役を七帆ひかるは、縁なしメガネとクールな外見作りで成功させ、主人公への心理やスタンスの変化もうまく描き出している。長身が男役として有利な七帆だが、スーツの着こなしにもう少し美意識を。それはこの組の長身男役たちに共通の欠点なのだが。
初めにも書いたように、この芝居には当時も今もアメリカが抱える問題、裏社会が色濃く影を落としているのだが、その世界の中心で、あるいは周辺で生きている人々が、それぞれリアリティを持って登場していることも、この作品の見どころだろう。
洒脱な雰囲気に恐さをまとったNY市長ジミー・ウォーカーの萬あきら、NY市警の刑事ジェイムズの一樹千尋と、“ザ・フィクサー”アーノルド・ロススタインの美郷真也は、いろいろな意味で強烈な存在感。またアーノルドの妻キャロリンの五峰亜季は悪女らしく、彼女の手下ガットマンの暁郷は強面に。ギャングスターのマイヤー・ランスキーを演じる天羽珠紀は渋い迫力だし、「コットン・クラブ」オーナーの風莉じんはいかがわしく、探偵社のマネージャー彩苑ゆきや、NY地方検事補のポルハウス八雲美佳も考えてみればどこかうさんくさい。そんなふうに一筋縄ではいかないキャラ揃いで、どの人物を見ていても面白い。
いっぽうサミュエルの周辺は若者らしい明るいキャラが多い。妹ドロシー・花影アリスと友人のアデリン・愛花 ちさきは花のように可愛らしく、「コットン・クラブ」のダンサーたちは、ハロルド・蓮水ゆうやとフィナード・澄輝さやの兄弟(黒く塗っているせいか風貌がよく似ている)や、コニーの大海亜呼、マーガレットの葉室ちあ理、フリーダ・花里まなと、アイダ・すみれ乃麗などで、ダンス場面で活躍したり、主人公たちを助けて奮闘する。
そのほかガットマンの手下オットー・風羽玲亜とジェラルド・彩羽真矢、クラブの名物ウエイター役と刑事ジェイムズの息子役を演じた真央あきと、「ヘルズ・キッチン」の店員の月映樹茉や、NY婦警の紗羽優那など、ちょっとした役でもそれぞれ役作りできる材料を与えられていて、いい経験になるだろう。
この作品のラストシーンは、もちろん明かさずにおくが、大野拓史の初期作品が、主人公が権力に押しつぶされる悲劇が多かったことを思えば、人間のしたたかなエネルギーを信じて終わる最近のラストは、作家自身の変化にも思えて、後味がいい。そういえば、『ヘイズ・コード』もそんな気持ちよい終わり方だったことを思い出した。(文・榊原和子/写真・平田ともみ)
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◆宙組公演◆
バウ・ミュージカル『NEVER SLEEP』
作・演出/大野拓史
・宝塚バウホール公演(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:2007年4月7日(土)~4月16日(月)
・日本青年館大ホール(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:2007年4月21日(土)~4月27日(金)
投稿者 宝塚プレシャススタッフ 2007/04/16 23:10:36 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (0)
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