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2007年6月20日 (水)

榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー

愛音羽麗、まっすぐにひたむきに 植田景子の美が彩る花組バウ公演『舞姫』

花組バウホール公演初日(6月16日)
Musical『舞姫』― MAIHIME ―

 演出家・植田景子の世界に欠かせない“美”が全編をさまざまに彩り、花開いた舞台である。
 ストーリー展開、音楽、美術、言葉、人物、それぞれが必要なリアリティと美を持ち、抑制のきいた形で主張し合いながら、ドラマを生かしている。

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 たとえば新宮有紀による舞台美術は、ごくシンプル。屏風をイメージしたようにも見える移動式の茶色の壁がある。だが目を凝らすと日本画の“落花流水”が描かれているのだ。床には可動式の薄い台、それが日本家屋の畳にも、ドイツの街の舗道にも酒場にも見立てられる。背景におかれた黄菊の生け垣は、ホリゾントが青い空になると冴え冴えとした美しさを際立たせる。

 音楽は甲斐正人で、骨太でありながらリリシズムに満ちていて心にしみ入る。楽曲のどれもがどこか懐かしくもあり荘厳でもあり、メロディ1つで、その時代や国へと運んでいってくれる力がある。
 そんな、簡素でありながら贅沢な空間の中で、愛音羽麗以下18名の花組生と2名の専科メンバーは、個性の違いはあっても、質朴でどこか芯がある100年前の日本人とドイツ人の物語を生きてみせる。

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 タイトル通り、下敷きになっているのは、明治の文豪・森鴎外の小説「舞姫」である。ドイツに留学したエリート官僚の太田豊太郎(愛音羽麗)と、貧しい踊り子エリス(野々すみ花)の悲恋を描いた名作だが、物語の結末が、豊太郎が踊り子を残して(捨てて)日本に帰国するという形だから、抵抗を抱く読者も少なくない。そういう点では、女性客の多い宝塚で舞台化するには、かなり難易度の高い作品だったと思う。

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 だが、脚本・演出の植田景子は、維新とともに近代国家に生まれ変わろうとする揺籃期の日本を色濃く描くことで、時代に引き裂かれた悲恋という面を打ち出すことに成功、主人公太田豊太郎を、宝塚的二枚目のイメージを損なうことなくエンディングにまでもっていく。それが植田景子の目的だっただろうし、豊太郎を悪者にすることなく、エリスとの別れを観客に受け入れさせることを、まさに成立させてみせた。だが、それには、原作同様、相沢(未涼亜希)という憎まれ役の存在が必要で、見方によっては「余計なことをする」この役を、誠実そうな持ち味や友や国を思う迫真の演技で説得力をもたせた、未涼亜希の演技力は、高く評価されていいだろう。

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 また、オリジナルな造形である美術留学生の華形ひかるの無残な死は、豊太郎の帰国を促すファクターになっているのだが、書き方によってはあざとさと紙一重の場面も、華形と恋人華月由舞のカラッとした強さが助けになって疵(きず)にならなかったのは、植田景子の当て書きのうまさだと思う。

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 そんな周到なキャラたちに支えられて、愛音羽麗の太田豊太郎は、いい意味でまっすぐにひたむきに、恋人への愛と祖国愛の葛藤を生きる。ドイツという国への初々しい向き合いかた、官僚たちとの確執に見せる正義感、エリスへのほとばしるような愛情、そして別れに至るまでの苦悩や人としての弱さ、それらのものを、今の愛音が持つすべてをさらけ出して、人間的な豊太郎を浮かび上がらせた。歌声の響きのよさや、軍服姿のりりしさ、エリスに見せる優しさや色気もほどよい。

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 野々すみ花は、エリス用に声のトーンを上げていて、それが儚(はかな)さになっているのだが、吸い込む息の音が洩れるクセを直したほうがいいだろう。演技的には、いつ壊れてもおかしくない繊細な女性像を作り上げていて、狂気にいたる伏線や寄るべのなさなどを、自然に漂わせている。また少女の可憐さと同時に深い母性を持っている不思議な娘役で、妊娠を告げる場面や精神病院での豊太郎への赦(ゆる)しで見せる無垢な明るさが、かえって観るものの胸を深くえぐるのだ。

 未涼亜希は前述したように、友人豊太郎や彼の家族のために憎まれ役をかってでる相沢を好演。いわばエリスを狂わした張本人であるのだが、登場から終章まで、終始一貫して信念を持って行動する男の強さを見せることで、人間としてブレがない表現を見せた。

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 同じく前述した原芳次郎の華形ひかると、恋人マリィの華月由舞は、豊太郎の夢と挫折の象徴で、最後は悲しい運命をたどるのだが、若い2人の愛と生命の輝きや、自由な暮らしの楽しげなようすなどは、豊太郎ならずとも憧れを抱くだけの美しさを見せて、大きな役割を果たした。

 豊太郎のドイツ生活に翳(かげ)りを持ち込む官僚たちは、白鳥かすが夕霧らい祐澄しゅん
 白鳥は知的な作りの陰にエリートの傲慢さや卑小さものぞかせて、印象を残す。また彼らと行動を共にしながら、豊太郎に心酔していく細菌学の留学生に日向燦。この人は演技派とは知っていたが、オタクな医学生の小心と日本人のステレオタイプな主体性のなさを、きちんと演じた。

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 専科からの2人、天方伯爵の星原美沙緒は、太田豊太郎を憲法作りに誘う政治家らしく、大物の風格を見せる。光あけみは、エリスの母で娘を売ろうとするローザ、キツイ感じは出ているがやや上品すぎるのが残念。息子の免職を恥じて自害する豊太郎の母に梨花ますみ、古風な女性役はりんとして美しい。豊太郎の妹に舞城のどか、兄との手紙のやりとりに情がこもっている。

 ドイツで豊太郎が世話になるドクトル・ヴィーゼは紫峰七海で、落ち着いた役作り。その令嬢・舞名里音は華やかで明るい。そのほかカフェのフラウ・シュミットなどの愛純もえりや、ホットワイン売りや豊太郎に影響を受け留学する青木英嗣の彩城レア、幼い豊太郎やバレリーナの瞳ゆゆ、同じくバレリーナなど何役も演じる白姫あかり、街のパン売りやホテルのボーイなど長身で目を引く輝良まさと。この出演者すべてが、ドイツと日本、それぞれの空気を生き生きと伝えてくれる。

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 まさに秀作と言えるこの作品に、あえて1つだけ苦言を呈すなら、大日本帝国憲法の発布から富国強兵、植民地政策へと乗り出していく明治は、太田豊太郎の恋と引き換えにするだけの価値が本当にあったのだろうか。憲法発布と重ねるならそんな示唆もどこかにほしかった気がする。

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  だが、『舞姫』という題にふさわしく、ポスターのモチーフにもなった舞扇が大きな意味を持ち、2人の愛を彩るこの舞台は、まさに植田景子ならではの世界。病院のエリスが豊太郎に抱きしめられた一瞬、まるで正気を取り戻したかのように鮮やかに扇返しを見せる、その哀切さと美しさ。
 文学的で完成度の高いこの舞台が、東京にやってこないのはあまりにも残念。時期をおいてでも東京公演が実現することを、強く願ってやまない。(文・榊原和子/写真・平田ともみ)

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花組バウホール公演
Musical『舞姫』-MAIHIME-
~森鴎外原作「舞姫」より~

期間:
6月16日(土)~25日(月)
場所:
宝塚バウホール
出演:
愛音羽麗、野々すみ花 ほか
作・演出:
植田景子

※詳しくは宝塚歌劇ホームページの公演案内をご覧下さい。 

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投稿者 宝塚プレシャススタッフ 2007/06/20 19:37:09 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | | トラックバック (0)

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