榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
豊かな色彩とダンスで充実の月組ショー『MAHOROBA』─遥か彼方YAMATO─
月組宝塚大劇場初日(8月3日)
『MAHOROBA』─遥か彼方YAMATO─
月組公演が始まっている。2本立て公演だが、春の星組と同様に、前が日本的なショーで、後が芝居+フィナーレという点では、ややイレギュラーな作りになっている。だが剛と柔とでも言ったらいいのか、『MAHOROBA』がかなり激しいショーだけに、『マジシャンの憂鬱』の良い意味でゆるめの洒落た味わいが心地よく、うまくバランスが取れた2本立てだ。
『MAHOROBA』は、芝居の演出では数々の傑作を生んでいる謝珠栄が、初めて手がけるショーである。振付家としてのダンスシーンでも、謝珠栄はテーマが鮮明だし、メッセージを明快に届けてくる。
そんな謝が取り組むショーだから、もちろんストーリーがあり、副題に「遥か彼方YAMATO」とあるように、古事記がベースになっている。なかでもメインキャラとなっているのは、日本人が愛する悲劇的な古代のヒーロー、オウス=ヤマトタケルである。
舞台は、始まる前から時空を超えた空間に作られているうえに、オープニングとともに美しい天女たちがふわりふわりと現れるから、一気にファンタジーの中に引き込まれる。引き込まれたあとは豊かな色彩と新鮮なダンスに次々と目を奪われ、たった45分間の上演時間とは思えない充実感だ。
謝珠栄自身が、いろいろな取材で語っているように、この舞台には日本の伝統芸能だけでなく、アジアの民族舞踊まで取り入れた多彩な振付が登場する。そして、どれもがその場にふさわしい音楽と、出演者の踊る能力で、実に見応えのあるものになっている。また太鼓や、傘、棒など小道具を使う振りも多いのだが、メンバーたちが楽しげに使いこなして圧巻の場面を生みだしている。
展開は、日本の四季をイメージしていて、“春”の天地創造に始まり、オウスによる火の国征伐やニライカナイ幻想の“夏”、豊饒の国YAMATOから嵐の海にオウスが翻弄される“秋”、吹雪と鬼に阻まれ落命する“冬”、そしてまた、オウスが白い鳥となって飛び立つ“春”に戻っていく。その永遠の回帰を思わせる“時”と“命”の輪は、観るものにそれぞれの命を省みさせて、謝らしいストレートなテーマを届ける。
主演の瀬奈じゅんは、オープニングではイザナギ、その後にオウスとなり、2度の遠征の悲哀と異国での死までを演じる。豪華な衣装もみずら風髪型もよく似合って美しいだけでなく、父に疎まれ遠方に征伐に出かける皇子の苦悩も浮かび上がり、悲劇の主人公がよく似合う。クマソ退治で女装する場面は中性的でキュート。主題歌「我が心のまほろば」の熱唱が心を打つ。
彩乃かなみは、イザナミは堂々とした風情。オトタチバナヒメでは、愛するオウスのため、嵐の海に自ら犠牲となる場での絶唱(作曲・斉藤恒芳)が哀切で心に沁みる。古代風衣装の着こなしも美しい。
オウスと同行する先導神サルメの霧矢大夢は、歌に踊りに力強さを感じさせ、とくに武術風のダンスには弾けるような勢いがある。
同じく先導神サダルの大空祐飛も各場面に登場、吹雪の中の死に方が壮絶で美しい。霧矢と大空もクマソ退治で女装場面があるが、瀬奈以上にあまり女性らしくないのだが、それもご愛敬。
他の登場人物では、オウスを見守る三貴神のツクヨミ(未沙のえる)、スサノオ(萬あきら)、アマテラス(出雲綾)は、威厳と落ち着きで場を締める。これが退団公演となる嘉月絵理は、海神オオワタツミでは猛々しい。遼河はるひはクマソタケル兄と豊饒の神オオヤマツミを演じ大きく華やか、桐生園加はクマソタケル弟、また鬼の首領シナツヒコでソロを踊るなどダンスシーンで本領を発揮。龍真咲はククノチで若々しい神姿を見せている。
娘役は群舞が多いが、ヤマトヒメの花瀬みずか、ニライカナイの娘などの城咲あいが、目立つポジションにいる。
装置や衣装もよく考えられていて、視覚的にも美しいショーだが、近未来を意識した映像に関してだけは、時折りデジタル過ぎることに違和感を感じる部分も。また、今回の話題となっている津軽三味線の上妻宏光の作曲・演奏は吹雪のシーンに登場、すさまじい迫力とともに日本的な音の奥深さを聞かせてくれる。(文・榊原和子/写真・藤原浩司)
(⇒『マジシャンの憂鬱』初日レビューへ続きます。)
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◆宝塚歌劇月組公演◆
スピリチュアル・シンフォニー
『MAHOROBA』-遥か彼方YAMATO-
作・演出・振付/謝珠栄
ミュージカル
『マジシャンの憂鬱』
作・演出/正塚晴彦
・宝塚大劇場公演(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:8月3日(金)~9月17日(月)
・東京宝塚劇場(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:10月5日(金)~11月11日(日)
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投稿者 宝塚プレシャススタッフ 2007/08/19 22:25:26 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (0)