榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
瀬奈じゅん、魅力的な恋する男に 月組『マジシャンの憂鬱』
月組宝塚大劇場初日(8月3日)
『マジシャンの憂鬱』
(⇒レビュー『MAHOROBA』─遥か彼方YAMATO─より続く)
『マジシャンの憂鬱』は、簡単に言ってしまえば、人気マジシャンのマジックが一国の行方を救うという、ちょっと浮世離れしたストーリーなのだが、作・演出の正塚晴彦ならではの人間描写とセリフの面白さで上質のコメディになっている。
簡単にストーリーを紹介しよう。ダンディなマジシャンのシャンドールは、透視の才能を見こまれて、皇太子から事故死した妃の真相解明を依頼される。そしてそのプロセスで知り合った女性ボディガード・ヴェロニカと、お互いに反目し合いながらも、いつしか惹かれあっていく。同時に、皇太子妃の死因にまつわる謎はいっそう深まり、それを探るシャンドールとヴェロニカにも危険が迫ってくる。
正直に言うなら、謎解きの部分で浮かぶいくつかの「?」もあるのだが、物語世界が持っている本質的な優しさや温かさのほうが心を捉えるので、作品そのものの疵にはなっていない。結局のところ、物語の整合性も大事だが、それよりも作品の中で提示されるテーマがいかに観客の心を惹きつけるかが大事で、『マジシャンの憂鬱』はその点で成功していると言っていいいだろう。
そこで、この作品で提示しているものだが、最初に書いたように一国の政情をめぐるサスペンスタッチのコメディという形でありながら、その本質にあるのは2組の男女のラブストーリーで、愛というものが人間を動かす力の大きさ、強さが描かれているという点では、ド直球の恋愛劇なのである。
2組の愛のうち1組は、もちろん主演コンビの瀬奈じゅんと彩乃かなみが演じるシャンドールとヴェロニカである。
シャンドールとヴェロニカの場合、恋を面倒に思う男と恋に不器用な女の恋愛だから、互いにバリアーが厚く、コミュニケーションに手間がかかる。だが、バリアーを乗り越える力を生み出す奇跡もまた恋の不思議さ、というわけで、人が人を愛する歓びを、さりげなく嫌みなく描き出すのは、さすが正塚晴彦である。
もう1組は、皇太子ボルディジャール(霧矢大夢)と彼が心から愛する妃マレーク(城咲あい)で、こちらはストレートに愛の絆の強さを教えてくれる。ネタばれになるから詳しく書けないのが残念だが、一途ともいうべき皇太子の愛が、さまざまな意味で妻を甦らせる力になり、信じ合う力はあらゆる困難を乗り越えさせるという、信念にも似た人生観が描き出されている。
この2つの愛が、主旋律としてしっかり押さえられているから、シャンドールのどこか胡散臭いクロースアップ・マジックも(失礼!)、事の解決のやや雑な部分も、微笑んで拍手することができるし、最終的には作品そのものに気持ちよく心満たされて、劇場を後にすることができるのだ。
シャンドールの瀬奈じゅんは、全国ツアーの『ダル・レークの恋』に続いて、やっとその魅力を発揮できる役に本公演でも出合えた。この役はマジシャンの科学的な明晰さとともに、霊能者としてのカリスマ性がないといけないのだが、瀬奈じゅんが本来持っている自己アピール力、“俺様性”が良い意味でオーラを発して、場を支配する人物の大きさが出ている。また正塚演技の特徴である「短い受け答えのなかにニュアンスを込めること」が、おそらく瀬奈の演技スタイルと重なるのだろう、テンポのいいセリフ回しとなって、芝居全体を引っぱっていっている。相手役ヴェロニカとの恋の過程でも、瀬奈らしい強引な部分とシャイな部分がないまぜになって、まさに魅力的な恋する男になっている。
ヴェロニカの彩乃かなみは、作者がいちばん当てて書いたではないかと思いたくなるほど、彼女の長所短所を取り混ぜ、しかもそれを新鮮な魅力として描き出している。真っ直ぐさ、頑固さ、やや色気に乏しいところ、純情さなどが、元皇太子妃のボディガードとして生きてきた女性の特性とあいまって、リアルに浮かび上がる。そんな仕事ウーマンが初めて恋をした困惑と喜びは、客席にいる現代の働く女性たちの等身大とも重なって、ヴェロニカの恋心に観客も一喜一憂することになるのだ。
皇太子ボルディジャールの霧矢大夢は、正塚作品の軽そうで重いメッセージを背負うことが多い。3年前の花組特出の『La Esperanza』でもそうだったが、テーマは重いのに大仰に人生を語るのをイヤがる正塚演出では、霧矢の明るさが大きな力になるのだろう。この物語のボルディジャールも、妃の事故死という大きな悲劇を味わいながら、その本当の悲しみをシャンドールにも簡単には見せない。彼の真実とその傷の深さを見せるのは、愛した妃の前だけである。そんな大人な男性を、霧矢はコメディセンスと人間味あふれるキャラクター作りで生み出してみせた。
主演コンビと皇太子の霧矢で、ほとんどストーリーを見せてしまうこの作品だが、彼らを取り囲む役からワンポイントの役まで、特徴や見せ場が作られているのも正塚作品の特徴だろう。
シャンドールは“居候”と称する5人組にいつも囲まれている。占い師ギゼラの出雲綾はちょっといかがわしく(?)、探偵ラースロ・嘉月絵理は頭も弁も立つ知性派。ジグモンドは大空祐飛で、夢みる発明家というよりは現実を把握している行動派の二枚目という雰囲気。俳優ヤーノシュ・遼河はるひはいいかげんそうな感じ。自称詩人のレオーは龍真咲で、いちばん若く愛されキャラ。この5人がことあるごとにシャンドールを助けたり邪魔になったりと、舞台を賑わしてくれる。
皇太子妃のマレークを演じる城咲あいは、出番が後半少しだけだが、印象の強い儲け役。登場シーンでの錯乱がやや過剰気味か? ネタばれになるから書きにくいが、皇太子への愛を感じさせる演技は心に残った。
専科から出演の未沙のえると矢代鴻は、墓守り夫婦のいかにもワケありのクサイ演技やトボケぶりで笑いを誘い、それぞれ男爵と新聞記者というワンシーンでもきちんとツボは押さえている。同じく少ない出番でさらうのは、司祭シャラモンの桐生園加。
娘役での儲け役は、ヴェロニカ配下のボデイガード、憧花ゆりのと夢咲ねねで、たおやかで綺麗な女性たちが真剣に格闘する姿がかっこいい。一方、皇太子のボディガードの星条海斗と明日海りおも、職務に忠実な二枚目コンビで視覚的にも楽しい。初盤のマジックシーンでは越乃リュウや瀧川末子、青樹泉、また終盤では、大臣の北嶋麻実や指令官の良基天音なども、ワンポイントだが印象を残す。
フィナーレが最後に付いているが、ステッキを持ったロケットや、霧矢大夢が芯となった男役&娘役たちとのダンスも、瀬奈じゅんと彩乃かなみの赤い衣装のデュエットも、芝居のテイストを壊さない大人っぽいセンスで仕上げられている。瀬奈と彩乃のデュエットの最後、大階段上で美しくポーズを決めた2人が、スポットにフェイドアウトする余韻も粋で、正塚センス全開の芝居&フィナーレになった。
最近のオリジナルのなかでも高いクオリティに仕上がってこの2作品、月組の今の構成メンバーの厚みと実力を感じさせる優れた公演である。(文・榊原和子/写真・藤原浩司)
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◆宝塚歌劇月組公演◆
スピリチュアル・シンフォニー
『MAHOROBA』-遥か彼方YAMATO-
作・演出・振付/謝珠栄
ミュージカル
『マジシャンの憂鬱』
作・演出/正塚晴彦
・宝塚大劇場公演(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:8月3日(金)~9月17日(月)
・東京宝塚劇場(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:10月5日(金)~11月11日(日)
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投稿者 宝塚プレシャススタッフ 2007/08/19 22:26:58 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (0)
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