中本千晶のヅカ★ナビ!
《中級編》トート閣下で考える進化と多様性
レベル:★★☆(中級編)
分野:進化論
対象:この夏の研究テーマに悩む学生さんや研究者?!
自分でもたくさん観たいけど友だちだって誘いたい・・・だから、よけいにチケット入手困難になるという困った作品「エリザベート」。
運よく観やすいお席のチケットを入手できたので、タカラヅカ初体験の男性を誘って観に行った。
前の日あまり寝ていないというので闇の国に誘われてしまうのではないかと心配だったけど、貸してあげたオペラグラスを片時も離すことなく、食い入るように舞台に熱中している様子。
幕が降りた瞬間に「ああ、面白かった~」とひとこと。さすが、エリザベートの魅力は偉大である。
とりわけ、水夏希演じるトート閣下がお気に召したご様子で、
「手の使い方といい、腰の動かし方といい、フェロモンむんむんって感じでカッコいい!」
と、しきりに感心している。だが、そのいっぽうで、
「でも、見た目はすごくカッコいいのに、やってることはカッコ悪いよな~。エリザベートに始終付きまとって、まるで、ストーカーって感じ」
という疑問も。
「それは、死の神トートの実態が『恋する人間の男』だからだよ。だから、悩み悶えたり、ストーカーになっちゃったりするんだよ」
と、慌てて答えた。
しかし、いわれてみれば確かにトート閣下という役は回を重ねるごとにフェロモン度もストーカー度も増しているような気がする。
帰宅してから、雪組初演版のビデオを見直してみたが、一路真輝のトートはもっと中性的、神秘的で、まったく印象が違う。男臭さという点でいえば、あっさり系だ。
そういえば、このころは「トップスターが死神を演じるなんて」という疑問の声もあったのだ。
再演の積み重ねのなかで、演じるスターによって最も変化してきたのが、このトート役ではないだろうか?
その理由は、「死の神」という存在が人間の女性を愛してしまうという設定の難しさにあるのだろう。人間世界を操る圧倒的な存在でありながら、エリザベートを愛する男としての魅力も持ち合わせなければいけない。
ことに、2002年花組版の春野寿美礼トートあたりからことに目立つようになったのが、トート閣下の「弱さ」である。恋する男の悩み苦しみ、これが一歩間違えばストーカーといわれてしまうのかもしれないが、この「弱さ」が加わることでトートという役に重層的な魅力が増したともいえる。
そして、6代目トートの水夏希は、神としての妖しさ、強さと、男としてのフェロモンや弱さを絶妙のバランス感覚でブレンドし、彼女ならではのトート像を創り上げた。
歴代トート役の暗中模索の積み重ねを経て、宝塚版トート閣下は「男」として成長したのだ。
歌舞伎の世界では、主要な役に「型」というものがあり、場面ごとの演じ方が細かく決まっていたりするものだが、歴代トートの進化ぶりをみるにつけ、「型」というものはこうやって生まれてきたのかもしれないと思ったりした。
そして、その過程をライブで体験できる幸運を改めて感じる。
もしかして、100年後の「エリザベート」には、「雪組型」とか「○代目トート型」とか、さまざまな「型」が生まれていたりして?・・・Oh,kitsch!!(中本千晶)
☆ステップアップのための宿題☆
再演の際、主演するスターや組メンバーの陣容によって演出がガラリと変わってしまう「ベルサイユのばら」などと違って、「エリザベート」の場合は変更がほとんどありません。だからこそ、演じるスターの個性の違いが際立つともいえます。各組版の見比べも「エリザベート」鑑賞の大きな楽しみのひとつです。
投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2007/08/10 10:00:00 中本千晶のヅカ★ナビ! | Permalink | トラックバック (0)