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2007年9月29日 (土)

榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー

春野寿美礼、哀愁を身にまとい 花組『アデュー・マルセイユ』

花組宝塚大劇場初日(9月21日)
『アデュー・マルセイユ』

 春野寿美礼のファイナル公演が始まった。ミュージカル・ピカレスク『アデュー・マルセイユ』とグランド・レビュー『ラブ・シンフォニー』の2本立てである。
 サヨナラ公演ともなれば客席もひとしお熱いはずだが、プログラムで春野寿美礼も「退団公演だからと意識することなく」と語っているように、愁嘆場というよりはしみじみとしたサヨナラという2作品になっている。

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 『アデュー・マルセイユ』は、作・演出の小池修一郎のオリジナルで、昨年の『NEVER SAY GOODBYE』に続いて、スターの魅力を生かしながら組のメンバーたちにも目配りが利いた、充実した作品に仕上がった。

 物語は春野寿美礼演じるジェラールが、14年ぶりに生まれ故郷のマルセイユに帰ってくるところから始まる。彼は対立するオリオンとスコルピオの二派のギャング同士の争いに巻き込まれるが、その騒ぎのなかでオリオンを率いる「夜の帝王」シモンと14年ぶりの再会を果たす。ジェラールには、かつてシモンを助けるために濡れ衣を着て少年院に送られたという過去があった。そして今はアメリカン・マフィアとの繋がりを持ち、高級ワインの密輸のルートを求めてマルセイユにやってきたのだ。実は彼にはシモンにも話していない裏の顔があるのだが、そうとは知らないシモンは、ジェラールへの援助を約束し、自分が経営するカジノへと誘う。

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 また、ジェラールはマルセイユ駅で観光ガイドのマリアンヌと知り合う。彼女はギャングの街と化したマルセイユの浄化と、婦人参政権を求める「アルテミス婦人同盟」運動を行っていて、ジェラールやシモンの母親たちが働いていたマルセイユ名物のサボン(石鹸)工場跡を、その活動の拠点としていた。その工場を訪れたジェラールに、マリアンヌは自分たちの運動の手助けをしてほしいと訴える。そこで彼はサボンをアメリカで売ることを提案し、マリアンヌたちのサボン作りが始まった。

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 時代は1930年代初頭、アメリカでは禁酒法のさなかで、マフィアが暗躍し勢力を広げていったことが作品の大きなファクターになっていて、ヨーロッパ映画のフィルムノワールを思わせるギャングものであり、男の友情ものである。副題に『マルセイユへ愛を込めて』とあるように、マルセイユを舞台に、闇の世界ギャング社会と、光を象徴するかのような婦人運動が並行して描かれていて、そのなかにそれぞれの生き方や愛、恋などがほどよく散りばめられていて、どのシーンも見逃せない。

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 春野をはじめとする男役たちも、それぞれうまく描き分けられていて、とくにジェラールとシモンには、ある事件をもとに大きく人生が大きく変わってしまった2人の過去と今が、叙情に満ちた目線で描き出される。
 いってみればこの物語は、主人公ジェラールが、どこかで忘れ物をしてきたような過去に、きちんと落とし前をつけるために故郷にやってきて、それをなしとげて去っていく、そのドラマであり、それがテーマといっていいだろう。そのぶんラブロマンス部分は、事件の進行に関わりはあるものの、作品の中心テーマからは遠くなっている。だがラブロマンスが芯ではないことで、ジェラールとマリアンヌの愛は、お互いの立場をリスペクトしつつ、あえて別れを選ぶというところにきれいに着地して、それは春野桜乃というコンビの関係にも重なって、いい後味を残し清々しい終幕を成立させた。

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 そういう意味では、最初に「サヨナラをことさら意識しない作品」と書いたことと矛盾するようだが、やはり春野寿美礼というスターが、宝塚あるいは花組と別れるためのセレモニーを物語のなかに書き込んでいて、座付作者としてプロの仕事を見せてくれた小池修一郎の手腕に敬意を表さずにはいられない。

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 主演の春野寿美礼は、マルセイユ駅の階段上に現れた瞬間から哀愁をその全身にまとって、平坦ではない人生を生きてきた男ならではの色気と翳りを漂わせている。華奢な身体にも関わらず、大人の男の懐の深さや強さを感じさせ、スーツ姿が本当によく似合う。
 さらにジェラールは裏社会の人間と渡りあえるだけの頭脳や技術、強靱な精神などを持っているのだが、ソフィスティケートされた外見にそれを隠す春野の持ち味が、この作品を甘さのあるハードボイルドに仕上げている。主題歌の「アデュー・マルセイユ」をはじめとする美しい歌声は、観客の涙を誘い、ラストの銀橋は、別れの寂しさがひとしお胸に迫って切ない。

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 マリアンヌを演じる桜乃彩音は、彼女の等身大のよさを出せる役に巡りあった。 なによりも清楚な容姿が女性の参政権を求めるグループ「アルテミス」のリーダーにふさわしく、ひたむきさや真面目さ、若い娘ならではのちょっと尖った部分も無理がない。ジェラールにひかれていく気持ちや、別れにいたる心の揺れなども、多くはない場面のなかできちんと見せて、ラストのマルセイユ駅での余韻ある旅立ちにつなげた。

 真飛聖は、マルセイユの「夜の帝王」シモンで、その男っぽい魅力や軽みをうまく作品に生かしている。オリオンファミリーの頭として見せる強面の部分と、ジェラールや恋人のジャンヌに見せる少年時代のままの素直な顔というメリハリを使い分けているのが巧み。また、ジェラールへの不信と友情に悩むあたりでは葛藤をきちんと感じさせる演技で、表面で見せている顔だけでは終わらない、人間としてのシモンを描き出している。

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 市会議員でマリアンヌの運動をサポートするモーリスは壮一帆。さわやかな持ち味は魅力の1つで、登場すると空気が明るくなるのはこの人ならでは。後半になって、もう1つの顔を持っているのがわかるという単純ではない役なのだが、相手によって裏表を切り換えるところをうまく見せていて、最後のシーンでの動揺などで、モーリスの屈折した心情を表現してみせる。

 シモンの恋人でミュージックホールのスターのジャンヌは愛音羽麗。芝居では珍しい女役だが、もともと美形だけに華やかさがあり仇っぽい。役柄的には、シモンとのコンビでは明るく笑わせ、ジェラールにはどこか母性を感じさせる態度が大人っぽく魅力的で、若い娘のマリアンヌの真っ直ぐさと好対照になっている。銀橋でのソロがあって聞かせるが、もっと遠慮せずに場をさらってもいいかもしれない。

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 物語がギャングたちの世界ということで、2つのグループが出てきて、主にそこで若手男役たちが使われていて、それぞれ一工夫を見せている。とくにオリオンファミリーの若手たちは、親分のシモンとともにどこか憎めないキャラ揃いで、ジェフ・華形ひかる、セザール・真野すがた、フーケ・望月理世、ミシェル・朝夏まなとなどが出番も多く活躍している。

 若手娘役たちは、婦人参政権の仲間たちとしての場面が用意されている。マリアンヌと行動をともにする桜一花野々すみ花は、きりりとチャーミングだし、そのほかメガネがかわいい花野じゅりあをはじめ、華耀きらり華月由舞芽吹幸奈など華やかな娘役たちが揃った。

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 また、この物語ではジェラールと対立する側も重要な存在なのだが、実力派から若手まで、こちらのメンバーたちも充実している。悪徳警部に星原美沙緒、スコルピオのボスに夏美よう、イタリアの大金持ち実はシシリアン・マフィアと関わりを持つジオラモの未涼亜希、その愛人に鈴懸三由岐 など、それぞれが色濃いキャラを打ち出していて、なかでもいつもは清潔な持ち味の未涼が見せる色気ある悪役ぶりが新鮮だ。そのほかにも、スコルピオ幹部のダニエル・高翔みず希、モーリス配下のロベール・扇めぐむなども印象的。

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 ジェラールとシモンの少年時代も、この作品のなかで大きな意味を持っているが、その子供時代を演じているのは望海風斗冴月瑠那で、2人ともに健闘。そのシーンで鍵を握る人物として登場する国際刑事機構のフィリップ・立ともみ、謎の男ルノー・紫峰七海、少年たちの母には絵莉千晶梨花ますみなどが、それぞれ場面を締めている。また取調官の嶺輝あやとは脇役でも目立つ男役だったが、これで退団になる。

 マルセイユ駅の階段が最初と最後のシーンを飾り、地下水路やサボン工場など、フランスの歴史を感じさせるシチュエーションも効果的で、マルセイユの街の香りが作品のすみずみまで漂う。そんな空間でしみじみと笑って泣いて春野寿美礼に別れを告げる、そんな作品である。(文・榊原和子/写真・岸隆子)

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(⇒レビュー『ラブ・シンフォニー』初日レビューへ続きます。)

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◆宝塚歌劇花組公演◆
ミュージカル・ピカレスク
『アデュー・マルセイユ』-マルセイユへ愛を込めて-
作・演出/小池修一郎

グランド・レビュー
『ラブ・シンフォニー』
作・演出/中村一徳

・宝塚大劇場公演(⇒宝塚歌劇団公演案内へ
 公演期間:9月21日(金)~10月29日(月)

・東京宝塚劇場(⇒宝塚歌劇団公演案内へ
 公演期間:11月16日(金)~12月24日(月)

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投稿者 宝塚プレシャススタッフ 2007/09/29 17:54:40 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | | トラックバック (0)

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