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2007年9月 4日 (火)

男役の行方~正塚晴彦の全作品

はじめに~宝塚の新しい時代に向かって

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正塚晴彦
まさつか はるひこ。宝塚歌劇団演出家。
76年、宝塚歌劇団入団。最初の演出作品は『暁のロンバルディア』(81年)。
以降の主な作品に『銀の狼』(91年月組)、『メランコリック・ジゴロ』(93年花組)、『二人だけが悪』(96年星組)、『バロンの末裔』(96~97年月組)、『FAKE LOVE』(97年月組)、『ブエノスアイレスの風』(98年月組)、『カナリア』(01年花組)、『Romance de Paris』(03年雪組)、『BOXMAN』(04年宙組)、『マジシャンの憂鬱』(07年月組)ほか多数。

 宝塚の人気は男役で持っている。虚構の男性が舞台上で光り輝く。

 では男役とはどういうものか。

 その姿は時代とともに変化していく。いまはちょうど新しい変化の季節にさしかかっているかのようである。

 演出家正塚晴彦に注目するのは変化の方向を見定めるためである。彼の描く男役は他の演出家の男役とは少し違う。それはどこを目指しているのか。

 たとえば最近作2007年の月組作品『マジシャンの憂鬱』を見ても、映画を思わせるサスペンス仕立てや、回り舞台を回転させて、やはり映画のセットのように次々に情景を切り替えていく技法に目を奪われるが、それ以上に、男役の性格が独特だという思いに強く捕らわれる。

 この独特の性格がどういうもので、どのようにして生まれ育ったか。それを知るために演出家のデビュー作以来の全作品を見直してみようと思う。

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 この仕事に取りかかる前に、まず宝塚の男役の歴史を見ておかなければならない。

 男役は宝塚少女歌劇が1914年(大正3)に第1回公演を行った時から存在した(1940年に名称を「宝塚歌劇」と改める)。

 初期の男役について高峰妙子が証言を残している。彼女は第1回公演『ドンブラコ』で、鬼退治の桃太郎を演じた。つまり最初の主演男役である。

 戦後の宝塚に一時代を築いた演出家高木史朗が、75歳の高峰妙子に直接聞いたところでは、初期の男役は特に男らしく見せる工夫はこらさず、髪も長いお下げ髪で、時にそれを帽子の中に隠す程度だったという。

 演出家はこう要約している。

 「だから男役という考え方も、無理に男らしく見せるとか、変態的な疑似男性的なあり方は否定された。あくまで少女が男の役をやっているということで許される範囲の自然さをとった」(『おお宝塚60年』朝日新聞社、1976年)。

 「変態的な疑似男性的なあり方」という言葉に、時代の刻印が鮮やかに見て取れる。

        ★        ★       ★

 1927年(昭和2)に演出家岸田辰弥が洋行から帰り、『モン・パリ』を発表して、宝塚はレビュー時代に入った。レビューはたちまち宝塚からあふれ出し、浅草レビュー・OSK・SKDなどに広がるが、ほぼ昭和と共に寿命は尽きた。いまレビューという芸能形態を伝えるのは宝塚だけである。

 男役はレビューと共に新しく生まれ変わる。

 大正時代人気の中心は娘役にあったが、昭和に入って男役が娘役の人気を奪った。もっともそれは『モン・パリ』から急に始まったことではなく、岸田辰弥に続いて洋行した白井鐵造の帰朝第1作、1930年(昭和5)の『パリゼット』以後のいわゆる「白井レビュー」の頃からの話である。葦原邦子・小夜福子が代表的男役として人気を二分し、宝塚の戦前の黄金時代を出現させた。

 この時代に男役は断髪する。それは新しい感覚への挑戦だった。

 「激しい動きに適当にゆれる短い髪は、男役のイメージを、すっかり新鮮にしました」
 「若い女の子の綺麗な髪を刈りあげた白い襟足は、思いがけなくチャーミングで感覚的な発見もあり、ぞくぞくとシングル・カットにする生徒がふえていったのです」(葦原邦子『わが青春の宝塚』善本社、1979年)。

 断髪は社会に対する挑戦でもあった。

 「今、日本の女の髪はほとんど短くなっているがその頃は断髪しているような女は、世間から一種特別な眼で見られていた」(白井鐵造『宝塚と私』中林出版、1967年)。

 男役とは単に女性が男性の格好をすることではない。それは「世間の特別な眼」にさからって作り上げられた社会的歴史的な産物である。レビューが日本の芸能界を席巻した大きな理由は、女性のエロチシズムの解放にあったかと思われる。宝塚は男役の魅力というソフィスティケートされた形で。浅草はもっと直接的に踊り子の「エロ」を売り物にして。

 白井鐵造の指摘する「世間の眼」とは何か。それは「男は男らしく女は女らしくせよ」というルールである。すなわち古い形のジェンダー(生物学上のセックスではなく、社会的文化的な男女差)の押し付けにほかならない。

 レビュー時代の男役はそれを乗り越えるところに成立した。しかし戦前の黄金時代は戦時色の深まりと共にあえなく消え去る。その後、戦争を経て、宝塚の舞台は変質していった。ひと口にいってドラマへの傾斜である。ドラマは男役に内面性の深化を求める。その内面性が今度は逆に、古い形のジェンダー観に縛られている

        ★        ★       ★

 現代の男役は一般的に自分独りで輝く太陽であり、娘役は男役に愛されて初めて輝く月のような存在である。

 一方で世間がジェンダーを捕らえる目の方はいま大きく変わりつつある。「男は男らしく女は女らしく」というその線引きが、日々疑わしくなっていく。宝塚はこの現実とかなり掛け離れたところにいる。

 宝塚の舞台を見ると、しばしばこのギャップに驚かされる。舞台上では今でも、戦前の家父長主義的感覚の男役がしかもプラスの意味を担って生き延びている。

 正塚晴彦の男役の独自性を強く感じるのは、こういう背景に置いて見た時である。

 男役がレビューの華からドラマのキャラクターに傾斜していくのが避けられないならば、レビュー時代以来の伝統である「男役の美学」を信奉する以前に、登場人物としての男が、あるいは女が、どう生きるべきかが考えられなければならない。演出家のこの方法論が、社会一般のジェンダーの意識の向かう方向と重なり合う。

 ではその男役は具体的にどういう顔をしているのか。どこが観客の心を捕らえるのか。『暁のロンバルディア』から始まる作品の一つ一つがこのことを明らかにしていく。

(天野道映)

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 『男役の行方~正塚晴彦の全作品』は毎週火曜日更新です。第1章からはブログ『宝塚プレシャス』でその一部を紹介し、全文は会員サイトクラブA&Aの『宝塚プレシャス』でお読みいただけます。

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2007/09/04 13:15:13 男役の行方~正塚晴彦の全作品 | | トラックバック (8)

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