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2007年10月24日 (水)

榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー

彩吹真央、ピュアな青年を好演 『シルバー・ローズ・クロニクル』

雪組日本青年館公演(10月23日)
『シルバー・ローズ・クロニクル』

(まず始めに、このレビューは東京公演が初見のものであること、写真はドラマシティ公演のものを使用していることをお断りしておきます)
 
 彩吹真央主演の『シルバー・ローズ・クロニクル』が、東京で開幕した。すでに2週間の大阪公演を終えていることから、チームワークがしっかりできていて、劇中の遊びらしき部分やアドリブも危なげがない。
 “遊び”と書いたように、この作品はライトなコメディタッチで進んでいって、ポスターのイメージとはかなり違っている。ヴァンパイア好きな人が耽美を期待していくと、少しがっかりするかもしれない。だがこの作品世界には温かい笑いと切ない涙があるし、主演の彩吹真央大月さゆの持つ日常性、カジュアルな感覚をうまく生かしたラブロマンスになっている。

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 舞台は60年代のロンドン。オープニングは、詩人とヴァンパイアの少女の恋を描いた映画「銀のばら」の1シーンから始まる。祖父アランの撮ったこの映画を観ることがなによりも好きなエリオットは、大手製剤会社の庶務課に勤務していて、愛読雑誌が「怪奇と幻想」という、ちょっとオタクな青年。その彼の家の隣に「銀のばら」の主演女優にそっくりの少女アナベルが越してきた。彼女は実はヴァンパイアで、映画に主演した本人、孫にあたるエリオットを探して同じ時代、同じ街へとやってきたのだ。そして出会ったエリオットとアナベルは恋に落ちる。だが、アナベルとその兄を狙うヴァンパイアハンターのブライアンが、彼らを捕えて実験材料に使おうと暗躍を始めていた。

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 不老不死の命を持つ異形のものと、限りある命でしかない人間の恋、その結末をどう終わらせるかは、ヴァンパイアものを手がける作家に架せられた大きなテーマである。今回の作・演出の小柳奈穂子は、この作品全体に流れるハートウォーミングなテイストを大事に、その答をうまくハッピーエンドに落ち着かせた。だが、そのぶんヴァンパイアという、人間の血を吸って生き延びる存在のおどろおどろしさや、彼らが抱える葛藤や悲しみへの踏み込みが甘くなっている。ただ、小柳奈穂子がこの作品を作った目的が、ヴァンパイア自体を描くことではなく、憧れの世界に近づくことに命をかけた青年=エリオットの、純愛とその成長を描くという意味では、意図はきちんと観客に届けられている。人が、その一生をかけてでも手に入れたい夢や愛があるなら、心から思い続けること、そして信じ続けることしかない。そんなシンプルだが力強いメッセージが、ラストシーンから確かに伝わってくるのだ。

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 エリオットの彩吹真央は、怪奇物マニアという宝塚ではあり得ないキャラを、オタクの“気持ち悪さ”ではなく“ピュアさ”に変換して、主演の役割をみごとに果たしてみせた。前作『NAKED CITY』でも感じたことだが、小柳世界のいい意味でのドライな日常性、テンポのよさなどを味方につけてしまうのが彩吹のメリットで、この作品がファンタジーなのにリアルな物語として伝わってくるのは、彼女のその資質によるところが大きいだろう。
 デート用の変身でいきなりカッコよくなるのも、宝塚の男役スターとしてはプラスだし、ラストの老けも綺麗に見せている。作曲家にも恵まれて、吉田優子甲斐正人による美しい楽曲を、それぞれの場面でしっかり聞かせて、ミュージカルとしてのこの舞台の求心力になっている。

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 ヴァンパイアの少女アナベルの大月さゆは、歌唱もダンスも彩吹とのバランスがいいし、ファニーな可愛さで、ロンドンの街に不意に現れても違和感のない普通の女の子らしさが、この役としては生きている。だがヴァンパイアというイメージに伴う耽美を、もう少しだけ意識した役作りも見てみたかったと思う。これは演出と衣装の責任が大きいのだが、ビジュアルに課題が多く、カツラはドラマシティより改善されていたが、銀髪とメイクの映りがよくない。ドレスもメインで着ている60年代のトゥイギー風より、クラシックなもののほうを綺麗に着こなしているだけに、ヒロインを美しく見せるためのもう一工夫が、全てのセクションでほしかった。

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 アナベルの兄で、この作品の耽美部分を一手に引き受けているのが、クリストファーの凰稀かなめ。持ち前の魅力であるアンニュイ感とともに、ヴァンパイアの酷薄を、ただ立っているだけで漂わせている。芝居心もある人だけに、妹を思う気持ちや異形のものの葛藤を、少ない言葉のなかで感じさせる。課題の歌も『エリザベート』以来、進歩が見てとれるし、フィナーレのタンゴも魅力的に踊っている。気になったのはせっかくの顔の小ささを、大きなカツラで損なっていることで、凰稀のビジュアルに関しても、今回やや演出に疑問が残った。

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 エリオットの祖父の代からヴァンパイアを追いつめている側の、執念深いブライアンは緒月遠麻。オールバックの髪型も切れ者らしくてよく似合うし、悪ならではの色気を正面から押し出して、ドラマに緊張感を作り出した。同期の凰稀かなめと並んでのダンスは、対照的な魅力を引き立てあっている。

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 緒月とともに、ヴァンパイアにとって敵側となる人々は、国防長官テリー・モートンの磯野千尋、アンチエイジングの科学者パメラ・メイズの美穂圭子。それぞれ若手の緒月を支えて悪の側の厚みになっている。ブライアンの部下の愛輝ゆま香稜しずるは、セリフは少ないが出番は多めで印象を残す。モートンの娘で、クリストファーの牙に襲われるヴァージニアは愛原実花、ヴァンパイア世界に生きるようになってからの妖しさをうまく見せている。

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 物語の中盤で、エリオットの詩の映画化の話で登場するのは、プロデューサーの五峰亜季と監督の大凪真生大凪はラストで1曲歌わせてもらい目立っているが、彩吹をめざしてさらにレベルアップを。

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 エリオット側としては、3つのグループが出てくる。まず彼が勤める「シルバー・ローズ・ファーマシー」の同僚たち。気のいいジェインの森咲かぐやとエリートモテモテ風のマーチン・香音有希は、さりげない友情を示すシーンもあり、自然な芝居で会社の空気感を出している。アンの白渚すずはちょっと意地悪くておいしい役。そのほかに寿々音綾央雅光希透水さらさ桃花ひななども生き生きと動いている。

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 オタクなエリオットの仲間で、笑いを巻き起こすカワイイ3人組は、葵吹雪梓晴輝冴輝ちはや。マニアックな人間が持つ無邪気さと情熱をうまく表現している。
 エリオットをバカにしつつ助ける人気アイドルグループのリーダー・ティムは蓮城まこと、勘違いなナマイキさがカワイイ。グループのメンバーには凰華れの凛城きら真那春人とハンサム揃い。またグルーピーの女の子たちには花夏ゆりん沙月愛奈愛加あゆ雛月乙葉、パブ従業員の此花いの莉と、若手娘役たちが華やかさを競っている。

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 専科からの2人を入れて30人のチームだが、28人の雪組出演者のほとんどは、今が成長期の若手スターたち。その個性がキラキラと眩しいようにこぼれてくる舞台だ。そんな若手たちにそれぞれキャラを描き分け、メインストーリーを損なうことなくサイドの人間たちを動かしてみせた小柳演出。生徒の可能性を伸ばすのが、宝塚の座付き演出家としての手腕なら、小柳奈穂子はきちんとその役目を果たしている。そのことを高く評価したいと思う。(文・榊原和子/写真・岸隆子)

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宝塚歌劇雪組
『シルバー・ローズ・クロニクル』


作・演出:小柳奈穂子


期間:2007年10月23日(火)~29日(月)
場所:日本青年館大ホール

※詳しくは⇒宝塚歌劇公演案内へ

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投稿者 宝塚プレシャススタッフ 2007/10/24 20:11:30 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | | トラックバック (0)

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