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2007年11月10日 (土)

榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー

大和悠河、一人の男の陰影を見せた 宙組全国ツアー『バレンシアの熱い花』

宝塚宙組全国ツアー 千葉・市川公演(11月2日)
『バレンシアの熱い花』

(お断り:写真は梅田芸術劇場公演のものです)

 梅田芸術劇場メインホールからスタートした宙組全国ツアー『バレンシアの熱い花』『宙 FANTASISTA!!』。同作でお披露目となった新トップコンビの大和悠河陽月華は、6~7月の宝塚大劇場、8~9月の東京宝塚劇場、さらにこの全ツと、半年間同一作品を演じ続けて、着実に役への理解を深めてきた。大和演じるフェルナンドのほか、宝塚と東京では蘭寿とむ北翔海莉が役替わりで演じたラモン役とロドリーゴ役を、蘭寿がラモン、バウホール公演で抜けた北翔の代わりに七帆ひかるがロドリーゴを務め、演者の変化による三者のバランスの変容が、本作の新たな魅力を印象づけている。出演者も本公演に比べて半分以下の35名(専科の邦なつき含む)となったが、随一といわれる群舞とコーラスの迫力は健在。各地で熱気あふれる舞台を展開中だ。

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 柴田侑宏作・演出の『バレンシアの熱い花』は76年初演。榛名由梨瀬戸内美八順みつきといった個性の強い男役陣が、柴田作品ならではのリアルに血の通った男をそれぞれ演じて評判をとった。とはいえ31年前の作品、舞台がライブの芸術である以上、古びた箇所が目に付くのもある意味当然かもしれない。宝塚で幕が開いた当初はその点への反応も少なくなかったというが、東京公演でキャストそれぞれが余白を埋める作業を行い、その後、三度目となる稽古では柴田が丁寧に微調整したこともあって、全ツ版では脚本のもつ妙味がより味わえる結果となっている。

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 主演の大和悠河は、稽古段階でフェルナンドを「スペインのハムレット」ととらえ、事実、東京公演までは復讐心に燃えてやや盲目的に進んでゆく生硬さが特徴だった。だが全ツ版ではその固さがほぐれ、そのことで逆に、心ならずも遊び人を装う一人の男とその陰影が見えてきた。エル・パティオでギターを爪弾き、踊り子たちに投げキスをする表情もこなれた軽薄さで、一方、真実を打ち明けられずにいる婚約者のマルガリータへ向ける眼差しはいよいよ柔らかい。さらに刹那的な恋で結ばれた踊り子のイサベラに対しては、ハッとするほど情熱的な顔を見せる。その落差こそが人間フェルナンドの器の大きさであって、それは確かに「若い」「キラキラしている」といった形容詞で語られることの多い大和にとって難関ではあったろう。だがひたすらに稽古を重ね、前進を諦めないのも大和の持ち味。その結果が、全ツ版に確実に反映していることを評価したい。

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 酒場の踊り子で、フェルナンドの裏の顔までも愛するイサベラ役の陽月華は、社会の底辺で生き抜いてきた大人の女を自然に表わして好演。スッキリとした容姿にフラメンコの衣装がよく似合い、身分違いであるフェルナンドとの恋の行方を知りつつ、静かに胸に収めている様子が共感を誘う。エル・パティオでフェルナンドの歌を聴きながら見上げるときの少女のような瞳や、酒場で貴族(ロドリーゴ)に邪険にされるのを、よくあることと軽く流す仕草、自分に対するラモンの熱情を知りつつ「これでも頼りにしてるのよ」といなす表情など、勘所も的確で、陽月イサベラの存在が大和フェルナンドの輪郭を、よりはっきりと際立たせているのは間違いない。

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 ラモンを演じる蘭寿とむは、下町の男がもつ矜持と、イサベラに対する直情的な恋心を共存させ、その男ぶりで客席を魅了する。デルバレス邸でのフェルナンドとその母・セレスティーナ未亡人とのやりとりや、フェルナンドを心配してやってきたイサベラに、自分の恋心を隠してフェルナンドは無事だと伝える一連のシーンなどは、まさに本領発揮というところ。一瞬抱きしめたイサベラが自分の腕をすり抜けて去るのを見つめる表情が切ない。それは公演を通してますます激しくなっていて、全ツ版ではいまにも泣き出しそうに見えるのだが、そんな感応の深さが女々しくみえるどころか、逆に男の真情になっている点に、蘭寿の役者としての技量がある。

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 役代わりで大きな役が付いたのは、ロドリーゴ役の七帆ひかる。最近メキメキと頭角を現している七帆だが、正統派の貴族役、さらに恋に悩む役どころもほとんど初めてということで注目を集めた。伯父に恋人のシルヴィアを奪われ、嫉妬の炎と復讐心を必死に隠して立つ姿は、七帆自身の抑制的なたたずまいとうまく重なっている。同時に、酒場でラモンに皮肉を吐いたり、シルヴィアを抱きしめた後に空を睨む場面など、ふとした衝動のときに漏れ見せる表情は、恋に溺れ、自らのふがいなさに苛立つ青年の切迫感を伝えて印象的。ただ気になったのは、衣装が体に合っていない点。蘭寿に並んで遜色のない存在感だけに惜しく感じた。

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 さて、上記で述べてきた男たちの敵愾心を一身に受け止めているのが、現領主ルカノール役の悠未ひろ。フェルナンドの父を謀殺し、甥のロドリーゴの恋人さえ奪って妻にする相当な悪役なのだが、夜会のシーンでは来客に家族を慮る一声を掛けるなど、度量の大きさもうかがわせる。東京公演で若干見られた青さも全ツ版では影をひそめ、まさに色敵といえる貫禄。特に夜会の後の暗転で、一瞬虚ろになる表情がいい。ルカノールの抱える孤独がかいま見えるからこそ、その後のフェルナンドたちの復讐が生きてくる。

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 そんなルカノールと、元恋人のロドリーゴとの間で思い悩むシルヴィアを演じるのは、美羽あさひ美羽の長所である健康的な美しさが、この役では逆に作用してしまっているのは否めないが、この半年間同じ役を演じ続けることで、だいぶ芯がブレなくなった。夜会の場面で悔しさと涙をこらえ、ルカノールを睨みつける表情などは、美羽シルヴィアならではだろう。

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 マルガリータ役には、新人公演で同じ役を演じた天咲千華が抜擢。まだ研2ということで、ふっくらとした頬がなんとも可愛らしい。歌もセリフも娘役らしさに溢れているが、全ツの後半ではもう一歩踏み込んだ役づくりを期待したい。またラモンの妹でスペイン娘らしい勝気なローラは、こちらも新人公演で同役を務めた研2のすみれ乃麗。思い切りのよさが爽快だが、サジ加減を図ることが出来るようになれば、さらに魅力が増すだろう。

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 その他の出演者で目に付いたのは、まずルカノールの部下であるルーカス大佐の十輝いりす。不安材料だった滑舌もだいぶ聞きやすくなり、なにより長身に軍服が似合う。デルバレス邸に乗り込むシーンでは、二階に続く階段(全ツ版では中央に設置)を見上げた後、肩越しに振り返る横顔が軍人の厳しさを思わせて目を惹く。
 フェルナンドの手足となって協力する泥棒のドン・ファン・カルデロ役には、七帆の代わりに研6の春風弥里が入った。賢さと色気を感じさせる造型がうまいが、できれば鮮やかさも欲しいところ。

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 ルカノール派の密偵ホルヘは、鈴鹿照が卒業したため寿つかさに代わった。どこか憎めない風貌だった鈴鹿に比べ、黒いアイパッチと口髭にただならぬ気配を漂わせる寿ホルヘは、繊細な演技でルカノール派の闇を代表する。同じくルカノールの側近、バルカに扮した天羽珠紀は、通りすがりのローラを簡単に殺す酷薄さを匂わせた。
 セレスティーナ夫人は専科の邦なつきが続投。若者たちに向ける視線が滋味にあふれ、レオン将軍の美郷真也はフェルナンドらをまとめる胆力を感じさせてさすがのひと言。

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 そのほか、フェルナンドの友人で、共にレオン将軍に付くレアンドロの蓮水ゆうやは聡明さが前面に出、シルヴィアの弟マルコスの凪七瑠海には可愛さがある。ただせっかくの全ツによる役替わり。多少の冒険も見てみたい。
 また、ラモンを慕うフラスキータの彩苑ゆき、レオン将軍邸とデルバレス邸の両方で執事に扮する風莉じん、酒場の女の大海亜呼ら上級生陣も舞台に厚みを加えている。(ゲストライター・佐藤さくら/写真・岸隆子)

(⇒全国ツアー『宙 FANTASISTA!!』レビューへ続きます)

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◆宝塚歌劇宙組公演◆
ミュージカル・ロマン『バレンシアの熱い花』
作・演出/柴田侑宏 演出/中村暁

コズミック・フェスティバル『宙 FANTASISTA!!』
作・演出/藤井大介

・全国ツアー公演(⇒宝塚歌劇団公演案内へ
 公演期間:10月30日(火)~11月25日(日)

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投稿者 宝塚プレシャススタッフ 2007/11/10 22:14:41 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | | トラックバック (0)

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