榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
「こんなにも愛されて」 『春野寿美礼サヨナラショー』
花組宝塚大劇場公演千秋楽(10月29日)
『春野寿美礼サヨナラショー』
9月21日に初日の幕を開けてから、春野寿美礼との別れを惜しむ観客で盛り上がりを見せていた花組公演『アデュー・マルセイユ』と『ラブ・シンフォニー』の舞台が、10月29日、ついに千秋楽を迎えた。
ショーのフィナーレのあとに行われる『春野寿美礼 サヨナラショー』が用意されるあいだに、夏美よう組長から5人の退団者の紹介が行われる。と同時に、7年間副組長を務めてきた梨花ますみから、専科入りの挨拶があり、客席からは惜しみない拍手が送られる。
そしていよいよ『春野寿美礼 サヨナラショー』の幕が開いた。大階段に一人、春野寿美礼が水色のマント姿で立っている。オープニングの『TAKARAZYKA舞夢!』である。YOSHIKIに提供された「世界の終わりの夜に」を大きく歌い上げる。
そのあと春野はいったん退場、スミレの花束をモチーフに描かれたカーテンが降りると、花組生の影コーラスで始まる『レヴュー誕生』である。金色の衣装に着替えた春野が登場して「夢を紡いで」を歌い始めると、客席からはさっそく手拍子が入る。花組メンバーととも、『エンター・ザ・レビュー』から「夢を見れば」でにぎやかに盛り上がる。春野寿美礼の背後には、男役の真飛聖、壮一帆、愛音羽麗、未涼亜希、華形ひかる、真野すがた、望月理世、朝夏まなと、娘役の桜一花、野々すみ花が楽しげに集まってくる。そして春野がいったん去ったあとは、残りのメンバーで『アプローズ・タカラヅカ!』より同名の主題歌を元気に歌い継いでいく。
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このコーナーが終わると、下手花道に桜乃彩音が現れ、『ファントム』から「HOME」を歌い始める。懐かしい幻想世界を思い出させるように、春野は紫の衣装で、本舞台に妖しく登場、2人のデュエットで歌いあげる。あの素晴らしい作品世界を思い出させる1シーンだ。
桜乃が去ると春野の銀橋での1人舞台、『マラケシュ・紅の墓標』から「星のベドウィン」を静かに思いを込めて、『落陽のパレルモ』から「ロザリオの祈り」をドラマティックに、そしてアカペラの歌い出しで始まる『Appartment Cinema』の主題歌は、セリフまじりの歌が記憶を鮮やかにかきたてる。すっかり空間をスミレワールドに染め、客席を酔わせたコーナーだった。
代わって、下手花道に退団者3名、鈴懸三由岐、花純風香、嶺輝あやとが登場して、『Cocktail』の主題歌「スミレ色のカクテル」を銀橋で歌う。ダンサーとして力のある鈴懸や花純だが、楽しそうに、3人とも顔がキラキラと輝いている。
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再び、大階段に現れた赤いエンビの春野。『レヴュー誕生』から「黒いワシ」をろうろうと歌う。そこに桜乃彩音が登場、踊りながら大階段を春野のもとへ上がっていく。続いて本舞台では真飛が現れ、春野から引き継いで歌うなか、春野と桜乃の2人がデュエットダンスを見せてくれる。その3人の姿をカーテンが再び隠して次の場面に。
静かにコーラスが響くと、『TAKARAZYKA舞夢!』のメインテーマからフィナーレで登場した「新世界」へ。ダイナミックなシーンが次々に繰り広げられる。白エンビの壮一帆を中心に、花組メンバーたちがぞくぞく登場するなかに、白い衣装の春野が迎えられる。舞台いっぱいに繰り広げられる『TAKARAZYKA舞夢!』、華やかな総踊りが圧巻だ。
その連帯意識をさらに盛り上げるように、銀橋に出て春野が歌い始めるのは『La Esperanza』の主題歌。旅立ちにふさわしく心を励まされるような歌詞である。全員がコーラスで背後に力強く加わり、大階段を上がりながら歌う春野を見上げる。花組で春野を見つめてきたメンバーたちの日々を思い起こさせるような姿が、ひときわ胸に迫る場面だ。
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『サヨナラショー』のフィナーレは、本舞台に戻った春野に、桜乃彩音と真飛聖が紅い薔薇の花束を渡すところから始まる。春野は、1輪1輪、銀橋から客席に蒔きながらラストソング、ワルツ調の新曲で「こんなにも愛されて」を歌う。赤い花のペンライトが揺れる中、切々と別れの思いを込めて薔薇を投げ、“私は今日去っていく、こんなにも愛されて”と歌う春野寿美礼。観客からはすすり泣きが聞こえる。やがて、本舞台に戻り、花組生たちの中心に立った春野は、微笑むメンバーに囲まれながら静かに幕の後ろに消えていった。
☆ ☆ ☆
再び夏美組長が緞帳の前に登場して、退団者の経歴の続きを紹介、そして最後の幕が開く。いよいよ退団者の挨拶である。大階段を一歩一歩降りて、途中で一礼、下まで降りてきて中央のマイクに向かい、宝塚への別れの言葉を述べていくその1人1人の言葉を簡単に紹介しよう。
まずは専科の立ともみ。約40年という長いキャリアを持ち、ダンサーとしてまた名脇役として作品の厚みになった人だった。
「宝塚で生まれた私が宝塚に入るのは生まれる前から決まっていたことだと、今改めて思っています。宝塚の舞台を通して人間として成長させてもらいました。宝塚は私の全てでした。そして今、けじめの時を迎えました。今まで立ともみを見守り応援してくださった皆さまに感謝するとともに、宝塚歌劇団のスタッフの皆さまの大きな愛を感じております。そして何よりも自分自身を誉めてあげたいと思っております。(大きな拍手が入る)宝塚は心の故郷です。これからも誇りを持って歩んでいきたいと思います」ここで、いったん立ともみは袖に退場。
花組のメンバーたちが1人ずつ降りてくる。
嶺輝あやとは、長身で存在感のある男役だった。
「初舞台からずっと見続けてきた舞台から観る劇場の姿を、もう見ることがないと思うと不思議な気持ちです。嶺輝あやとが生まれて9年、確かに歩んできた道を決して忘れません。楽な道ではなかったけれど後ろを押してくれる力があり、仲間たちがいました。皆さまの力があってここまできました。嶺輝あやとの人生に関わってくれた全ての人たちに感謝いたします。ありがとうございました」
花純風香は雪組のダンサーとして注目され、02年に花組に組替えしてからも芝居やダンスで活躍した。
「今、ここに立てることを幸せに思います。前回の公演を休演してしまったことで、舞台に立つ楽しさ、仲間の大切さ、何気なく過ごしてきた毎日の素晴らしさを改めて気づくことができました。幸せだから卒業を決めることができました。喜多弘先生がおっしゃった“誠意と根性とそして努力を”という教えを胸に歩んでまいりました。ここまで私を支えてくださった皆さまのおかげだと思います。本当に今までありがとうございました」
鈴懸三由岐、春野と同期で、花組の娘役ダンスをひっぱる存在だった。
「舞台が好きです、宝塚が大好きです、この思いだけでここまで走ってきました。一瞬一瞬が永遠でないことを知っているからこそ、1回1回が愛おしく、大切でした。そんな自分とももうすぐお別れだと思うと、寂しい気もしますが、まだまだ自分は未知なる可能性を秘めていると信じて、歩き出してみようと思います。こんな私を支えてくれて皆さま、本当にありがとうございました」
そして、ついに春野寿美礼の番である。「皆さまもご一緒に名前を呼んでください」と言う組長の声に、観客も一緒に「オサー」と呼ぶ。その声に「はい」と答えて、緑の袴姿の春野寿美礼が降りてくる。
胡蝶蘭の花束は、鈴懸のときと同じく同期生の星組主演男役安蘭けいから。にこにこと笑顔で顔を見合わせて花束を受け取る春野寿美礼。大きな胡蝶蘭の花を胸に挨拶が始まる。
「宝塚の存在を知った私はすぐに入団を希望しました。夢を見る楽しさを教えてくれた宝塚、夢を叶えるには努力がいる、苦しいこともある、つらい思いも悲しい思いも…。夢に近づいたとき嬉しさがこみ上げる、そして夢を叶えたとき最高の幸せが訪れる。この宝塚で沢山の夢を見てきました。そして、私の宝塚での最後の夢、それは卒業です。今まで、私を支えてくださいました全てのかたがたに、感謝の気持を込めて、ありがとうございました」
選び抜いた言葉をシンプルに真っ直ぐに届ける春野に、場内から熱い拍手が送られる。
最後に、夏美よう組長から「本日この宝塚大劇場を卒業してまいりますこの5名の仲間に、もう一度温かい激励の拍手をお願いいたします」という言葉が添えられ、客席からは鳴りやまない拍手が送られる。
別れの歌は「すみれの花咲く頃」。歌いながら客席を愛おしそうに眺める春野、そして4人の退団者たち。2度目から客席がスタンディング、カーテンコールは5回。春野はそのたびごとに言葉少なに、感無量の気持ちを伝え、客席を見つめている。客席の涙が尽きないなか、春野寿美礼の宝塚大劇場のファイナルは幕を降ろした。(文・榊原和子/写真・HIRORIN)
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(⇒春野寿美礼退団会見・パレードへ続きます)
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◆宝塚歌劇花組公演◆
ミュージカル・ピカレスク
『アデュー・マルセイユ』-マルセイユへ愛を込めて-
作・演出/小池修一郎
グランド・レビュー
『ラブ・シンフォニー』
作・演出/中村一徳
・東京宝塚劇場(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:11月16日(金)~12月24日(月)
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投稿者 宝塚プレシャススタッフ 2007/11/01 23:52:58 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (1)
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受信: 2007/11/02 15:53:13