榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
最後の夢は卒業 春野寿美礼 宝塚大劇場千秋楽・記者会見&パレード
花組宝塚大劇場公演千秋楽(10月29日)
春野寿美礼退団会見・パレード
(レビュー『春野寿美礼サヨナラショー』から続く)
宝塚大劇場の舞台に別れを告げる『サヨナラショー』を終えて、あとはパレードを残すだけとなった宝塚歌劇団花組の主演男役、春野寿美礼が29日の夕刻、退団記者会見に臨んだ。
カトレアを中心にピンクの薔薇で作られたアレンジメントが飾られた机の前に立ち、爽やかな表情で、まず記者団に挨拶をする。
「大劇場公演を終わって、まだ緊張しているのですが、ほんの少しホッといたしました。最後の挨拶でも申し上げましたように、私の宝塚での最後の夢は、卒業していくということなので、今、心から幸せです。今まで本当にこんな私を支えてきてくださった皆さまに、心から感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました」
続いて質疑応答が始まる。
──これからどういうふうに歩んでいきたいと?
「どう歩んでいきましょうか(笑)。そうですね、私にしか歩けない道を歩いていきたいと思っています」
──それは宝塚で今までやってきた仕事を生かしたものですか?
「仕事? というか仕事に限らず、ちゃんと自分で選んでいけるように。自分で進みたいと自分で思って、自分でちゃんと一歩でも踏み出せるようなことへと、確実に歩んでいけたらいいなと思っています」
──決まっている仕事とか、やりたいことは?
「まだ卒業したといっても大劇場だけで、宝塚歌劇団は卒業してないので。最後まで宝ジェンヌであることを、この場所で、がんばっていきたいと思ってます」
──『サヨナラショー』で歌った新曲は?
劇団側の説明「退団にあたりまして作った新曲です。作詞の岸一眞というのは阪急・阪神ホールディングスの角和夫社長で、春野さんを送る詞を捧げたいというので、使わせていただきました」
──春野さんは歌っていかがでした?
「お稽古中は実感が湧かなかったのですが、昨日と今日と、『サヨナラショー』で歌わせていただいて、本当にその歌詞がぴったりで、いつわることなくその歌を歌えたというのは、自分でもびっくりしています。その曲をいただけて、そしてファンの皆さまにお聞かせすることができて嬉しいです」
──この公演はサヨナラ公演を意識していますし、客席で涙する人もいましたが、春野さんは実感は?
「客席で涙を流されていることは、舞台の上で、わかってはいたんですが、でも私のなかで、役を演じることとかショーのなかで組の仲間と一緒に舞台でエネルギーを出し合うことに夢中になれたので、あまり自分がそういう、退団していくというしんみりさを感じないでいて、反対にそれはよかったのではないかなと思います」
──今日は、それを実感した日ではなかったのですか?
「今日も舞台に立つことに必死でした。夢中でした、やはり」
──昨日、春野さんが泣かれたということですが、千秋楽が近づくにつれてこみ上げるものがあったとか?
「私?泣きましたか?(笑)思い出しても、よくわからないんですよ。
そのときそのとき一生懸命なので、本当についさっきのことも覚えていないくらいで。泣いたとしたらきっと役の上で泣いたのでしょうね。舞台の上で私的な感情を、あまり今回は入れてないので」
──春野さんは、ずっと花組だけですが、その花組の魅力、伝えていきたいと思っている花組の伝統は?
「私が主演を務めさせていただいた最初の頃は、いろいろ不安がありましたが、でも先輩から口頭で“花組とはこういう組で”ということは教えていただかなかったんですね。私ももちろん下級生に口頭では言ってませんし、私の姿を見て、花組生として男役として感じてもらえればいいので。言葉ではなく雰囲気で。でも望まなくても下級生はしっかり花組生であるということに誇りを持ちたいと思ってやっていてくれるので」
──初舞台から17年間なじんだ宝塚大劇場は、春野さんにとってどういうところですか?
「毎日当たり前のように舞台に出ていたので、あまり深く考えてなかったのですが、今までは私の自分の気持ちを解放できる場所というか、自分を表現できるところ、という感じでしたね。とにかく自分の心が解き放たれて存在できる場所でした」
──5年間でとくに思い出深い役は?
「全部ですね。本当に全部なんですけど、ただ『落陽のパレルモ』の公演中に足を痛めてしまって、その公演が終わったあと初めて手術して、そのあと東京公演があって、そのつらい思いをしながらの公演でしたので、今日『サヨナラショー』で、その主題歌を歌わせていただいたのですが、少し思い出して、甦りました。あと、やはりコンサートが私のなかで大きく変わった公演でした」
会見終了後は、すでに取ってあった記念の手形が運び込まれる。その手形に自分の手を重ねてみて「ぴったりだー(笑)」とおちゃめに笑う春野。最後に「東京公演までよろしくお願いいたします」と挨拶して会見は終わった。
☆ ☆ ☆
会見から約30分たって、退団者のパレードは始まった。
風もなく穏やかな秋の夜で、この日のギャラリーは約6000人。白いお揃いのトレーナー姿のファンが、大劇場の建物の外にぎっしりと並んでいる。花で飾られたアーチが3つ立っていて、歌劇場入口前の大ゲートまで続くパレードロードにはスミレの鉢植えがえんえんと並んでいる。その中を1人ずつ退団者が歩いてくる。立ともみ、嶺輝あやと、花順風香、鈴懸三由岐。それぞれ、緑の袴に花束を胸に抱えている。舞台化粧を落としてさっぱりと清々しい表情だが、別れの涙のあとか目のふちが赤い。報道カメラの前でひとしきりフラッシュを浴びて、ファンに向き直り、熱く手を振り合い、それぞれの迎えの車に乗り込んでは去っていく。
花飾りのアーチのほうで、ひときわ大きな歓声がまき起こる。春野寿美礼の登場である。スミレの花の上に飾られた電飾に光が入り、パレードロードをキラキラと輝かせる。春野はゆっくりゆっくりと、両側のファン1人1人の顔を、まるで目に焼き付けるかのように時間をかけながら歩いてくる。
報道陣の前に立ち止まり、笑顔でフラッシュを浴びる。記者からの「この電飾はいかがですか?」という声に、今歩いてきた方向を振り向き、笑顔を浮かべる。だがフラッシュをよけるように上げた手は目元をふいている。よく見ると涙をこらえているのだ。その姿に沿道のファンのなかにはもらい泣きする人もいる。報道の撮影が終わると、ゲート側のファンのほうまで歩いていって、門の外で待っていたファンの声援に応える。そして居並ぶファンから「オサさん、ご卒業おめでとうございます。あなたと出会えて幸せでした。オサさん大好きです」という言葉が送られる。それを受けて春野は、ただニコニコと穏やかに笑っている。その顔は、言葉にならない思いをかみしめているようでもあり、この別れの時間を愛おしんでいるようでもある。
旅立ちの車は赤いオープンカー。後部座席の上の車のトランク部分にちょこんと腰を下ろし、優しい笑顔をいっぱいに浮かべ手を振りながら、花組主演男役春野寿美礼は、17年という年月を過ごしてきた宝塚大劇場から去っていった。(文・榊原和子/写真・HIRORIN)
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◆宝塚歌劇花組公演◆
ミュージカル・ピカレスク
『アデュー・マルセイユ』-マルセイユへ愛を込めて-
作・演出/小池修一郎
グランド・レビュー
『ラブ・シンフォニー』
作・演出/中村一徳
・東京宝塚劇場(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:11月16日(金)~12月24日(月)
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投稿者 宝塚プレシャススタッフ 2007/11/01 23:54:11 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (1)
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