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2007年11月19日 (月)

榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー

北翔海莉、実力を十二分に発揮 宙組バウ公演『THE SECOND LIFE』

宝塚バウホール
宙組公演『THE SECOND LIFE』

 宙組は今、全国ツアーとバウホールの二手に分かれて公演中だが、どちらも若いパワーが台頭するチャンスとなっていて、このバウホールでも北翔海莉を中心に、元気で生きのいい舞台を見せてくれている。
 『THE SECOND LIFE』は、作者の鈴木圭にとっては03年の『里見八犬伝』以来2度目の演出作品。純粋なオリジナルとしてはこれが初めてなので、この作品の出来は彼の今後を占うものになるのだが、結果としてはいい出来で、これからの彼の作品作りを期待させるものになっている。

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 物語は2007年、つまり現代のシチリア。高台にあるホテル・ヴィンセントを組の事務所にしているヴィンセント一家は、平和主義で非暴力をモットーとする風変わりなマフィア。一家のNO.1であるジェイク・アイアンは、女グセは悪いが腕が立ち、親分や仲間思いのいい男。弟分のケリーや親分の娘アイラなどはジェイクに夢中だ。だがある日、シチリアの覇権を狙って乗り込んできたマルコーニ一家を追い返したため、彼らに狙われ、ついには殺されてしまう。
 そのジェイクの死体に忍び込んだのが、マーク・ホワイトの魂。彼は天才ピアニストで、恋人のルシアを忘れられずに天国から逃げ出してきたのだ。一方、マークを心から愛していたルシアは、友だちのケイトに誘われて傷心旅行に出かける。その宿泊先がホテル・ヴィンセントだったことで、マークの魂が入ったジェイクに追いかけ回されることに。マフィアを嫌うルシアと、自分はマークだと知らせたいジェイクの間で、恋の追いかけっこが始まる。

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 魂が他人の姿を借りて愛しい人に会いに行く、という発想は映画や舞台、あるいは小説のゴーストものの定番で、あまり目新しいものではない。それなのにこの舞台は手垢のついた感じがしないのは、ゴーストもののお約束を、わかったうえで全部放り込み、観客の“知ってる”感をうまく拾い上げて、味方につけてしまったからだろう。あの映画に出てきた音楽、どこかで観たような場面、このシチュエーションならこうなるはずというお約束を、全部踏まえて出して見せるから、破天荒なギャグやあり得ないキャラも、かなりムリヤリなラストも、ある種の共犯意識で許せてしまうのだ。

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 この“知ってる”感は、ゴースト部分以外にも発揮されて、ブートキャンプなどの流行りものをうまく取り込んだり、ブランドバッグをプレゼントにしたり、時代を“今”に設定したからこその面白さを見せてくれる。ただ、この同時代感覚に頼る作りかたは、旬が過ぎればアナクロになるリスクをはらんでいて、そのとき大事なのはベースにある作者の“人生観”や“世界観”である。そしてこの作品で描かれている、不器用なまでに真っ直ぐな“愛し抜く力”は、流行りモノやお約束という面白さを取り除いたあとでも、観客を惹きつけるに十分な芯となっている。

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 さて、この当て書きに違いない舞台で、鈴木圭は二幕で、ジェイクとマーク、どちらに北翔海莉の顔を重ねながら、セリフを書いていたのだろうか? そんな疑問も浮かぶほどジェイクもマークも北翔は地に足のついたキャラクターにしている。1幕の凄腕のマフィアぶりは若手二枚目スターならではの華やかさだし、ピアニストのマークの魂が入ってからの外見と内面のギャップでは、抜群のニュアンスを発揮する。主題歌を弾き語りするシーンは、恋人への諦めきれないマークの心の声となって、聞くものの心を揺さぶる。もともと芝居も歌もうまい人だとは思っていたが、コメディセンスも含めて実力を十二分に発揮、代表作の1つになる作品に巡りあえた。

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 相手役のルシアの和音美桜は、恋人をなくした傷心とマフィアを毛嫌いする気の強さがよく出ていて、劇中のソロナンバーや、北翔とのデュエットが美しく聞き惚れる。ただ、洋服のデザインがあまりよくないのか、メインで着ているワンピースのウエストラインが美しくなくて残念だ。ラストシーンは、和音の明るい個性ならではのインパクトが生きた。

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 ジェイクの弟分のケリー・スレーターは早霧せいなで、整った容姿なのに、気が短くて人のいい軍隊あがりのマフィア。親分の娘のアイラを好きで、彼女の誕生日のシーンはほろりとさせる。たくさん歌わせてもらっているだけに、歌はさらにレベルアップを期待したい。

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 ケリーを中心としたヴィンセント一家の若者たちは、みんなどこかおっちょこちょいで人がいい。それぞれにかっこよくて、勢揃いすると舞台がいっぺんに華やぐ。カルロ・美牧冴京、ジュリオ・麻音颯斗、ニコロ・雅桜歌、ファビオ・光海舞人、マウロ・澄輝さやと、ルーカ・颯舞音桜、ロベルト・天輝トニカ、役としてはあまり書き分けてもらってないのが残念だが、そのなかで個性を見せていくことでは、いい勉強の場になったはずだ。

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 この作品で、誰が一番かわいいキャラかといえば、ドン・ヴィンセント。素敵なヘアで平和主義の非暴力、大の犬好きで子分たちには慕われている。そんな役を、別に珍しくもないようにひょうひょうと演じ、しかも神様との2役で忙しい汝鳥伶には熱い拍手を。

 そのドンの娘で、このホテルを仕切っている アイラは藤咲えり。ジェイクを好きなのだが、自分を想い続けているケリーの気持ちに気づいてからが愛らしい。

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 ルシアの恋人でこの事件の発端となるピアニストのマークは、七海ひろき。マフィアを恐れる普通の青年らしさと、天国を逃げ出してでも会いに行く一途な愛をよく見せている。後半では大きな犬の中に入って大活躍。
 ルシアをシチリア旅行に誘う友人のケイトは美風舞良。ジェイクに一目惚れしたり、敵対するマフィアにつかまったりと、動き回る困ったちゃんを、フットワークよく演じている。

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 マフィアといえどいいヤツばかりのこの物語で、ワルを一手に引き受けているのが、マルコーニ一家のルイジ・八雲美佳とパオロ・月映樹茉、そして美女のニーナ・愛花ちさき八雲は腕も立つし頭もいいマフィアをかっこよく演じているが、ジェイクを罠にかけるシーンで見せる女装で思い切り笑いを取る。月映も強きに出てくるわりには弱いマフィアなのが面白い。このトリオでいちばんクレバーで凄腕なのが愛花で、黒いドレスでジェイクを誘惑する場面などは絶品の美しさと恐さだ。
 愛花がもう1役で出てくるジェイクを囲むシチリアの女たちには、花音舞、千鈴まゆ、百千糸。ヴィンセント一家の組員たちに対抗して綺麗どころとして場を賑わしている。

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 鈴木圭の演出は、ドタバタ調だがアナクロにならない今風なコメディセンスがあるし、現代に設定をしながらもどこかおとぎ話のような優しい時間が流れている。それがこの舞台を品のいいものにしている。マフィア同士の争いも殺しも出てくるのだが、そのどれもがウソくさくて、血なまぐささがないのも嬉しい。それでいて主人公たちの愛にはウソがなくて、ピュアなのだ。

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 ファンタジーが、人に優しさや温かさを与えてくれるものなら、この作品はよくできたファンタジーそのものである。難しくはないけど、心に届く深いセリフが書かれていて、演出にも、その心を映し出す世界がきちんと反映されている。シチリアの海辺をイラスト風に描いたさわやかな背景や、白を基調にした明るい室内(美術は関谷敏昭)、バラードを基調にした覚えやすく耳に快い音楽(吉田優子と外部の小森ひとみ)小気味よい振付(KAZUMI-BOY)など、スタッフワークも演出とブレがない。
 どこか懐かしく決して古びないファンタジー、それが宝塚ならではの作品作りの1つなら、ここにはそれがあった。こんな作品なら東京でも観客は大歓迎するだろう。(文・榊原和子/写真・岸隆子)

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◆宝塚バウホール公演◆

バウ・ミュージカル
『THE SECOND LIFE』
作・演出/鈴木圭

公演期間:11月10日(土)~11月19日(月)

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投稿者 宝塚プレシャススタッフ 2007/11/19 9:37:54 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | | トラックバック (0)

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