榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
大空祐飛ならではのテイスト 月組バウ『HOLLYWOOD LOVER』
ストーリーは1940年代末の映画の都ハリウッド。イタリア系の映画監督ステファーノが、8年ぶりに戻ってくる。ゴールデン エンパイア ピクチャーズの新作「女優サラ・ベルナール」のメガホンをとるためである。その主演女優ローズ・ラムーアは、ステファーノと過去に愛しあったことがあった。だがローズはプロデューサーとして力を持つリチャード・ローガンと電撃結婚、それがステファーノにハリウッドを去らせた原因でもある。
今、再び仕事をともにすることになった2人は、撮影現場でいつしかお互いへの愛を再燃していく。だが思想的にも、ローズへの愛という点でも、ステファーノに敵意を燃やすリチャードは、2人の仲を裂こうと画策しはじめ、その激しい嫉妬が、やがて不幸な結末を呼び起こすことになる。
オープニングの映像とダンスで一気に引き込まれ、気が付けばイタリアから8年ぶりに戻った大空ステファーノとともに、ハリウッド映画界の渦中にいる。その流れのなかで観客は、主人公ステファーノに感情移入し身をゆだねたままで観ていられる、そんな安心感と心地よさがこの舞台にはある。
ストーリーも無理なく悲劇へと進んでいき、予想された結果ではあるけれど、予測以上の衝撃を生み出すことに成功していて、ドラマを構築する力という点で、植田景子が確実に腕をあげたことが伝わってくる。
また、ステファーノとローズとリチャード、というトライアングルやキャラ設定そのものには、別に目新しいものはないのだが、起承転結の丁寧さ、また脇を固める人間たちへの書き込みが深くなり、それがこの作品をただのメロドラマと一線を画す文芸作品に押し上げている。
なかでも効果的なのが、リチャードの部下の越乃リュウやローズの友人の花瀬みずかなどの存在で、生きるうえで必要な人間の“罪”の部分を、肯定的に魅力的に書き込んでいる。これまでの植田景子世界が人間の“善”や“美”を大前提に描かれていたことを思うと大きな変化で、人間の内なる“罪”や“悪”も肯定的に書き込む目線の獲得は、これからの彼女の創作の幅を広げてくれそうで期待がふくらむ。
主演の大空祐飛は、『シニョール ドン・ファン』と『THE LAST PARTY』で植田景子作品との相性のよさを見せてくれていたが、今回は最初から当て書きであることで、男役としての魅力をさまざまなシーンで見せてくれる。芸術家の生命力、その陰に隠れた挫折感、愛に揺れる苦悩、あるいは愛を全うしようとする強さや全てを受け入れる包容力などなど。ステファーノの愛を信じる強い思いがあちこちに溢れているだけに、最後の失意の場面での嘆きの深さが胸を打つ。
またステファーノ自身はけっしてネガティブな人間ではないのに、大空祐飛というスターの持つ退廃的なテイストが、ハリウッドという場所の持つ空気感=人間性を蝕む場所という雰囲気を出していて、ドラマの色どりになっている。
ローズの城咲あいは、ハリウッドの看板女優という設定で、次々にゴージャスなドレスを着こなして登場する。スタイルは抜群だし華やかさもある。ただし、こちらも当て書きなのだろうが、植田景子が我がままな女性像をややステレオタイプにしか書き込めない弱点もあって、“女性の生き方”として共感しきれないのが残念だ。できれば感情的で流されやすい女性像としてではなく、才能ある女優ならではの繊細で感じやすい魂や表現への渇望、それを内部に持っているのが見えたら、もっと魅力的になるだろう。なんといっても同時に2人の男の心を奪ってしまう“女優”なのだから。
ローズの夫であるリチャードは遼河はるひ。ある意味では究極の愛を最後に見せてしまう儲け役である。映画のプロデューサーだが御曹司の部分も大きいので、切れ者というよりは世間知らずな感じをうまく見せている。また、父親やステファーノへのコンプレックスや屈折もうまく出している。だが、最初から悪役風に見える部分もあって、できれば消したほうがいいだろう。ステファーノへの敵意以外はごく普通の人間なのだから。
始めのほうにも書いたように、この舞台の奥行きを出しているキャラが何人かいて、その1人の越乃リュウは、リチャードの部下のレイ・ハドソン役。この物語のキーパーソンである。全てを知っていながら、それを呑み込んで生きる凄みがあり、組織にとって有能な人間という説得力を見せてくれた。
リチャードの父親のウォルターは磯野千尋、たたき上げの人間風ないかがわしさがあり、次々にパートナーを変えて出てくるのもよく似合って色気も健在。また、ローズの別荘の使用人で、夢占いの予言を告げるカマラの美夢ひまりは、物語の結末を暗示させるまがまがしさを醸しだしている。
ステファーノの友人のビリーは桐生園加、カメラマンらしい素朴さと温かさに溢れていて、アメリカ西海岸の明るさを感じさせてくれる。フィナーレでの男前なダンスも魅力的。その妻でマギーの花瀬みずかは、幸せな妻の顔と元女優というプライド、また挫折感を抱える陰の部分も見えて、物語のいいアクセントになった。桐生と2人の優しさに溢れたデュエットが印象に残る。
映画界をペンで切る女性ジャーナリストの2人は対照的で、それぞれの目線で映画界を見つめている。『THE LAST PARTY』に引き続き登場するシーラ・グレアムは今回も五峰亜季が、ゴシップコラムを書くヘッダ・ホッパーは憧花ゆりのが演じている。憧花は華やかさのあるいい娘役なのだが、セリフまわしがやや表面的になりがちなのが惜しい。
ステファーノ周辺の人物としては、まず、イタリアから付いてきた美術デザイナーのモニカに涼城まりな。外見的にもひと味違った色を見せているし、ステファーノの恋人としての存在感もある。映画人のなじみのバーのマスターは良基天音、バウものでは温かい芝居を見せている人だけに、今回の役どころも、最後の大事なエピソードに関わっている。
この作品に出ている若手たちは、ほとんどが撮影所で働くスタッフや俳優として、何役も演じている。そのなかで、通しの役どころとして活躍している1人が、ステファーノの助手役の麻月れんかで、恋人役の夏月都とともに溌剌とした若さを感じさせる。また音楽家の光月るうや、ちょっとゲイの入った姿樹えり緒の存在も楽しい。そのほかにもスタッフや俳優で榎登也、彩央寿音、美翔かずき、彩星りおん(過去のビリー役も)、舞乃ゆか(過去のマギー役も)、真凜カンナ、都月みあ、また過去のステファーノとローズを演じる紫門ゆりやと蘭乃はな、ウォルターの連れているパートナーになる妃鳳こころ、咲希あかね、夏鳳しおりなども、それぞれの見せ場で活躍している。
フィナーレのダンスナンバーは、いかにも宝塚らしく男役のかっこよさを、また城咲あいを中心とする娘役も、センスのいい衣装と振付で華やか。今さらながら植田景子演出は、観客の観たいもの=自分の観たいものに忠実だと思う。そしていつも敬服するのは、スタッフの力を最大限に活用していることだろう。この作品でも、外部から振付に招いた菅沼伊万里は、コンテンポラリーの要素でいいスパイスになっているし、奥秀太郎の映像や、衣装の静川孝子の力も大きい。その他にも、音楽、照明、美術へとはりめぐらされた植田景子の“その時代とその場所”を生み出すことへの努力には頭が下がる。そういった行き届いた舞台の上で生きられる喜びが、出演者のエネルギーとなって観客にしっかりと届いてくる、それが何よりもこの舞台を輝かせている。(文・榊原和子/写真・岸隆子)
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◆月組公演◆
『HOLYWOOD LOVER』
作・演出/植田景子
・宝塚バウホール公演(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:2007年12月15日(土)~25日(火)
・日本青年館大ホール公演(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:2008年1月19日(土)~25日(金)
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投稿者 宝塚プレシャススタッフ 2007/12/25 17:00:08 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (0)














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