榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
真飛聖、花組らしい甘やかな男役 『ラブ・シンフォニーll』
花組中日劇場公演
『ラブ・シンフォニーll』
(⇒『メランコリック・ジゴロ』より続く。)
聞き覚えのあるオーバーチュアで幕が開く。
そこには、新主演男役に就任した真飛聖が立っている。だがなぜか不思議な思いに襲われた。その真飛に、何度か春野寿美礼の表情が見える気がしたのだ。骨格もパーツもほとんど似ていない2人なのに。
この場面だけではない、あらゆるところに春野の残像が残っているはずで、花組ファンが観るにはつらいショーかもしれない。だが、そんな残像を重ねられることも、自ら引き受けるかのように、“花組らしい甘やかな男役”として真ん中に真飛聖は立っていた。そしてその真飛を囲んで、夏美よう組長・高翔みず希副組長を含む39名の花組中日メンバーは、このショーを新しいものとして楽しんでいることも、確かに伝わってきた。
オープニングは、真飛の黒エンビ姿の主題歌で始まる。伸びやかで堂々としている。続いて桜乃彩音が可憐に、壮一帆が軽やかに歌う。愛音羽麗と未涼亜希が、華形ひかると望月理世が、テンション高くそれに続く。組長以下16人の男役と舞城のどか以下17名の娘役が舞台いっぱいに広がる。その中に再び真飛聖が登場する。赤のスパン・ジャケットだ。キラキラ光る背景とミラーボールのなかで、勢揃いした中日メンバー。華やかに若々しく『ラブ・シンフォニーll』は始まった。
オープニングのあとは「ラブ・ゲーム」。ラブ・ハンターの真飛がソロ2曲を歌う。まずは新しい1曲で客席降り、通路際の観客とハイタッチしながら走り回る。知り合いを見つけたのか立たせて踊らせている。続いての曲は春野の寝そべりソング、ちょっと形を変えての客いじりで、色っぽいというより爽やかなダンディで迫ってみせる。
真飛が引っ込みカーテンが開くと、壮一帆のかっこいいソロの歌と踊りから始まるカジノ。次々にドアから飛び出すのは、愛音、未涼、高翔みず希、眉月凰、悠真倫、華形、望月、白鳥かすが、さらに日向燦、夕霧らい、祐澄しゅん、月央和沙、嶺乃一真、浦輝ひろと、初輝よしや、彩城レア、輝良まさと、航琉ひびき。カラフルな男役たちがキザに踊る。真ん中の壮もいちだんとパワーアップしている。
アダルトな女性ダンサーたちは、舞城、華月由舞、舞名里音、愛純もえり、雫花ちな、芽吹幸奈。そのなかに現れた幸運の女神・桜乃を男たちは奪い合うが、女神はクラブの男Aの真飛に惹かれる。ダーツ盤の上のセクシーなダンス。今回髪型を変えた桜乃はミステリアスなムードで、真飛とのダンスはよく息が合っている。
次はシーンは「花の愛」。真飛から壮に代わった花盗人は、ややクラシカルで端正な雰囲気に。花の精は桜乃以外の娘役メンバーが登場、清楚な甘さあふれるダンスが心地よい。
一転して「ラテン・シンフォニー」が始まると、ラテンのリズムで金色の蝶の歌手・桜乃が登場。リズム主体の難しめの曲だが、声がだいぶ通るようになった。その周りを囲むように蝶の男たち、愛音、未涼、華形、望月、白鳥、夕霧、そして祐澄、月央が歌い踊る。こういうラテンでのセクシーさの競い合いは、花組らしいところ。そしていちだんと華やかに蝶の男・真飛が登場して盛り上がる。さらに壮や、夏美組長やベテラン大伴れいかも加わった男役陣、若手娘役では湖々マリア、瞳ゆゆ、白姫あかり、彩咲めい、鞠花ゆめ、花織千桜、花輝真帆、桜咲彩花などが加わった娘役陣で、賑やかに中詰めの総踊りへとなだれ込む。ここでは全員の客席降りもあって、花組ファンの手拍子も最高潮に。真飛はその中心で嬉しそうに笑顔を振りまいている。そんな華々しい「ラテン・シンフォニー」の締めは愛音のラベンダーの装いのソロ。中日バージョンはしっとり感が増して、客席もしみじみと聞き入っている。
次はフラメンコの音色が心を波立たせる「スペイン交響曲」。スペインの男のトリオは、真飛・壮・未涼、スペインの女は桜乃。このシーンの未涼のソロは哀愁をかきたてる。中日版では歌詞も「アディオス・バンボレオ」から「アモーレ・バンボレオ」に替わり、ラストはソロで踊った春野版から太陽の中で仲間たちに囲まれる真飛版へと変化して、これからともに進む道への熱い思いを感じさせる形になった。
フィナーレのロケット・ボーイは日向燦、白鳥かすが、若々しく元気な2人とロケット・ガールの野々すみ花を中心に少人数ながら迫力では本公演に負けないロケットが繰り広げられる。
続いて、桜乃を中心にした娘役のダンスシーン。この曲もマイナーコードで歌いにくそうで、桜乃にはちょっとかわいそうなのだが、確実に声は通るようになっている。舞城、桜、舞名、初姫、愛純、雫花、華月、湖々という8人が柔らかなダンスをエレガントに踊る。
そして男役たちの極めつけのダンスは、もちろん黒エンビ。真飛の階段上の歌から始まり、中日男役メンバー22名による流麗なダンスは、やはり宝塚の華。その芯をまさに堂々という風情で真飛聖がつとめている。その姿にはオープニングで感じた春野の影は消えていて、新しい花組主演としての顔になっているのに気づく。自分らしさと花組カラー、それを無理なく混ぜ合わせている今の真飛聖の自信のようなものが、そこには溢れていた。
真飛がいったん去ると、壮が「ソー・イン・ラブ」を歌い、未涼、華形、望月、愛音へと歌い継ぐ。デュエットを踊る娘役たちは、舞城、桜、華月、芽吹、野々。都会的で端正な花組らしいダンスを見せてくれる。そして再び現れた真飛のソロから、主演コンビのデュエット・ダンスへ。真飛と桜乃のデュエットはリフトもありで、若々しくダイナミック。これからの2人のデュエットシーンを期待させてくれる。流れる影ソロは初姫さあやでしみじみと美しい。
そしていよいよラストのパレードで、エトワールは桜一花。主題歌とともにパレードが始まり、笑顔いっぱいの中日メンバーたちが次々に階段を降りてくる。最後に全員に迎えられて降りてくる真飛は、シルバーの総スパンに身を包み、大きな白い羽根を背負っている。そして舞台の一番前に進みでて、元気な笑顔を振りまいている。
この屈託のない幸せそうな笑顔で、これから真飛聖は、ただ真っ直ぐに前を向いて進んでいくだろう。そんな真飛聖を支えて中日劇場公演を熱く熱く盛り上げているメンバーたち、また今回は参加できなかったメンバーたち、その全員が揃う5月9日からのお披露目公演には、月組から異動してくる大空祐飛と白華れみも加わる。新しい刺激がいっぱい潜んでいそうな新生花組の船出、その宝塚大劇場公演を心から楽しみに待ちたい。(文・榊原和子/写真・岩村美佳)
【お詫びと予告】
花組中日公演をやっと観ることができて、たいへん遅れましたが『ラブ・シンフォニーll』を書かせていただきました。真飛聖さんのプレお披露目を報告することができて、少しだけホッとしています。
そして、改めて今回執筆が遅くなったこと、またイレギュラーな形になったことをお詫びいたします。
初日近くに観劇する予定が急な私事でNGになり、そのあともスケジュールの都合で終盤近くまで名古屋遠征ができませんでした。ただ、このコーナーを楽しみにしていただいている読者のかたたちから、ご質問やご心配のメールがたくさん届いたため、1日も早くお芝居だけでもと、すでに観ていたライターのかたに頼んで、代役で書いていただきました。
今回のことで、このコーナーを読んでくださるかたたちが、想像以上に熱い思いで待っていてくださることを身に沁みて感じ、改めて責任をひしひしと感じております。
他にもご質問いただいている月組バウ『ホフマン物語』は、4パターン全部を観ることができなかったため、一度はレポートを断念したのですが、観劇できた2パターンだけでもご報告したほうがいいのではないかと思い直し、近日中にアップいたします。
花組バウ『蒼いくちづけ』に関しましては、2パターン目を観た時点で1本のレポートという形でアップする予定でおります。
皆さまが読んでくださることを励みに、早い更新と充実した内容をお届けできるよう、できうる限りの努力していきたいと思っております。今後ともなにとぞよろしくお願いいたします。(榊原和子)
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投稿者 宝塚プレシャススタッフ 2008/02/24 21:16:23 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (0)