中本千晶のヅカ★ナビ!
《中級編》ヅカ史上稀にみる極悪ヒーロー
原作は「エロイカより愛をこめて」などで知られる青池保子氏の漫画だ。
時は16世紀後半の大航海時代。主人公のティリアンはイギリス貴族なんだけど、じつは母親が想いを寄せていたスペイン人の男との間の子どもだと疑われているため、父親からは疎まれて育つ。
成長したティリアンはイギリス海軍の将校となるが、想いは母の故郷スペインへ。
当時最強といわれた「無敵艦隊」を操って世界中の七つの海を制覇したいという野望を抱くようになる。
そのためには手段を選ばない男、ティリアン。
友人のフィアンセである海軍提督の娘が「使える」と思いきや、その心とカラダをいともたやすく奪ってしまうし、彼女の独占欲が疎ましくなれば命を奪ってしまう。
善良な商人を冤罪に陥れるなんて序の口、実の父親でさえも利害が対立すれば迷いなくハンギング(絞首刑)を命じる。
「えーっ! こんな場面タカラヅカの舞台でやっていいの~?(でも、ちょっとみてみたいかも)」 という非情きわまる場面の続出である。
果たしてこの作品、どのように舞台化され、観客にはどのように受け入れられるんだろう?
いつにも増して興味しんしん、お正月休みに漫画を通読して予習もバッチリ、年明けすぐの観劇日を楽しみに待っていたのだが・・・インフルエンザにかかって行けなくなっちゃった(涙)。
家で養生している間にも、先に「観たよ~」という人たちの感想が続々と耳に入ってくる。それを聞くと、どうやら評価がふたつに割れている様子なのだ。
主演の安蘭けいのファンは、当然、ワルの魅力にぞっこんである。そして、原作漫画のファンの人たちの評価も「原作への愛が感じられる」と高いようだ。
だが、そうでない人からは「エピソードがあれこれ詰め込まれすぎていて、わかりにくい」「後味悪すぎ」という声も。
やっと元気回復して自分でも観劇してみて、こりゃ確かに評価が分かれるだろうなと納得した。
で、私自身はどうなのかというと、こういう作品もアリなんじゃないかと思う。
私が感心したのは、
「えーっ! こんな場面タカラヅカの舞台でやっていいの~?(でも、ちょっとみてみたいかも)」
の場面がことごとく、舞台上でも忠実に再現されていたことである。
観客にとっては(でも、ちょっとみてみたいかも)がホンネなのである。きっとみんな、ためらいながらもオペラグラスを上げて凝視していたのではないか?
ティリアンとギルダ(遠野あすか)の関係も、タカラヅカ風の甘い恋人同士にしてしまうのではなく、あくまで「同志」としての見せたのも、演出家の原作を尊重する気持ちが感じられて好ましかった。
最後にティリアンの野望を打ち砕くのは、父の仇を討つために海賊に転じたレッド(柚希礼音)である。
でも、本当は大きな歴史の流れに逆らえなかったからだと私は思う。
世界の覇権はまさにスペインからイギリスに移りつつあった。それなのにスペインを信じ、こだわり続けたティリアンは貧乏クジを引いたのだ。
さしものティリアンも歴史のうねりの前には小さな個人にすぎない、その無常さを描ききるには1時間半はちょっと短すぎた。
ともあれ、毒にも薬にもならない二枚目しか登場しない話よりは、この手の作品のほうが私は好きだ。毒か薬かを喧々諤々と議論するのだって、観劇の楽しみのひとつなんだし。
ときにはこういった一癖ある男を主人公にするのもいいんじゃないだろうか。
いつも甘い甘いミルクチョコだけじゃない、ときにはオトナ向けのビターチョコも食べられるのが、タカラヅカのお楽しみなのだから。(中本千晶)
☆ステップアップのための宿題☆
原作は、ティリアンの生い立ちを描いた「1.エル・アルコン -鷹-」、女海賊ギルダとの物語「2.テンペスト」、レッドとの対決、そして野望が打ち砕かれるまでを描いた「3.七つの海、七つの空」の三編。実際に描かれたのは3→1→2の順なのだとか。この作品に限っては、原作の漫画も併読したほうが楽しみが倍増するような気がします。
投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2008/02/08 11:00:00 中本千晶のヅカ★ナビ! | Permalink | トラックバック (0)
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