榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
轟と大和・宙組が作り上げた『黎明の風-侍ジェントルマン 白洲次郎の挑戦-』
宙組宝塚大劇場公演初日(2月8日)
『黎明の風-侍ジェントルマン 白洲次郎の挑戦-』
宙組公演が、なかなか好調だ。
一見難しい戦争と政治の芝居がわかりやすくまとめられ、 幅広い層に訴える内容になっている。またショーは、各場面のレベルが高く、見応えと満足感がある。そして今回の公演は大和悠河率いる宙組が、専科の轟悠という初めての相手との共同作業によって、組カラーというものをはっきり意識して、各人の個性を打ち出すいい機会になった。また主演娘役陽月華の休演というアクシデントを、組の団結心というプラスの方向に向けているのが舞台から伝わってきて、胸を熱くさせられる。
ドラマの『黎明の風』は、白洲次郎という、戦後日本の舞台裏を生きたキーマンであり、言ってみれば表舞台のヒーローになるのをあえて避けて生きた人の話だけに、ドラマの主人公として展開するのはなかなか難しかったのではないだろうか。だが、高名な元総理の吉田茂と、 当時の日本を事実上支配していた連合国の総司令官マッカーサ-、そして白洲次郎というトライアングルをうまく作り、その3人の戦いの集大成を、サンフランシスコ講和条約というドラマチックな場面に持ってきたことで、この芝居が単なる歴史紹介のエピソード羅列に終わりかねないところを救ったといえる。
とくに敵役になりかねなかったマッカーサ-を、大和悠河がアメリカ軍人らしいストレートでヒューマンな個性として生き生き見せていることで、作品全体がめざす“志ある男たちのそれぞれの戦い”というテーマや、宝塚の男役の美学を見せることにも成功している。石田昌也の演出作につきものの下品なセリフがあまりなかったことも、この作品の品位を下げずにすんでいる。
轟悠の白洲は、インテリでモダンで自由人で硬骨漢でという、 日本人にしてはスケールの大きい男性像を、バイタリティを感じさせながら演じている。もともとバタくささのある人だから、白洲の面影を重ねてみる観客にとっても、大きくかけ離れたイメージではないだろう。場面的には、日本兵たちの死を悼むレクイエムの歌「群青」や、マッカーサーと対峙するGHQ本部の場が、やはり迫力がある。相手役の陽月華から代わった和音美桜とは夫婦役で息の合ったところを見せていて、轟悠という男役は意外と娘役を選ばないことに驚かされる。
大和悠河のマッカーサーは、最初にも書いたように、当時の日本人には脅威である“マッチョなアメリカ”の象徴的イメージを払拭してみせた。結婚式をあげたばかりのシーンでは包容力を、日本に降り立つ有名なシーンではダンディぶりを見せて、男役として大きくなった。また後半で白洲と対峙する場面では支配国の余裕を、日本から去る寂しさを見せる部分では大和ならではの心優しさが見えて、この役を作品の求心力とすることに成功した。
休演した陽月華の代役になった和音美桜は白洲正子役、次郎の轟と年齢差を感じさせない落ち着いた演技に、まず安心感がある。娘時代に「韋駄天お正」と異名を持ったお転婆娘というほど弾けてはいないが、明るい個性と歌唱力は魅力で、次郎とのやりとりは少ないが彼を思いやる妻の温かさは十分伝わってきた。ただし、銀橋のソロで歌うマーメイド調のスーツはスタイルを悪く見せ損をしている。これは衣装デザイナーの問題なのだが。

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この作品で次郎やマッカーサーと同等に大きな役が吉田茂で、演じているのは汝鳥伶。吉田茂というカリスマ政治家の風格と懐の深さを出せる役者は、やはりこの人しかいないだろう。日本という国への思いや次郎への信頼、マッカーサーをはじめとする連合国側への腹芸などで引き締め、この人もまたこの作品の主役の1人である。
軍人ながら白洲次郎に心酔する辰美英次の蘭寿とむ、こういうニュートラルな役をソフトな雰囲気で見せられるようになってきたのが、組替え後の蘭寿の収穫で、いい二枚目になっている。軍服も似合うが戦後の背広の着こなしも美しい。
この作品をグループ分けをしながらキャストにも触れていこう。
白洲の側で働く男たちには、政府の職員の近藤・美郷真也、武藤・風莉じん、打田・七帆ひかる、宮川・早霧せいななどがいる。
美郷はこれで退団というのが寂しいが、実直で冷静な事務官をうまく見せ、さりげない惜別の言葉が次郎のセリフで贈られる。風莉はCLO(終戦連絡中央事務局)職員で怒鳴られ役だが、流しの歌手ではソロもある。
七帆は次郎の後輩でもあるエリートを鷹揚かつクレバーな感じで見せて、さりげない存在感が出てきた。早霧も次郎に怒鳴られる側のCLO職員だが、誠実さと爽やかな華がある。
次郎と同窓でロンドン大使館員ロビンは寿つかさ。出番が少なくてちょっと気の毒だが、レクイエム・ダンサーで印象深い姿を見せる。
吉田茂の娘でのちに麻生家に嫁ぐ和子・藤咲えりは、和音の繰り上がり代役で、父と行動を共にするので出番が多い。セリフや舞台度胸がしっかりしているが、やや華やかさ不足の一面も。白洲正子のそばにはいつもお供のキクがいて、鈴奈沙也が軽さと怖さ(?)でいい味を出している。
大和悠河のグループは、まずは、妻ジーンの美羽あさひ。新婚の初々しさから、戦地や戦後の日本で働く夫を気丈に見守る強い妻へと変化する女性像を、きちんと見せている。
アメリカ軍の部下たちには、宙組の若手スターが並ぶ。グルーパー中佐の悠未ひろはやや差別的なアメリカ人、だが最後のほうで意識変化する様子などもきめ細かく見せている。ブレストン大佐の北翔海莉は、文官タイプの軍人で冷静でヒューマンさを出している。ラッセル少佐の十輝いりすは熱血型で演じていて、フィリピンに残り負傷した脚が痛々しい。
ほかにも米兵には春風弥里、鳳翔大、蓮水ゆうや、凪七瑠海など、MPに麻音颯斗、香翔なおとといった宙組の若手男役たちがカーキ色の軍服を着こなしてかっこいいところを見せている。
ほかにもマッカーサーの身辺を彩る人たちでは、使用人で中国人役の彩苑ゆきが、植民地の民の哀愁を見せ、連合国側で狡猾さをみせるソ連の将軍役の天羽珠紀が短い出番ながら印象を残す。
娘役たちもキャラを持つ役がいくつかあって、通信社の特派員で吉田和子と同窓のポーラは花影アリス、その同僚の愛花ちさきと地味な場面に明るさを持ち込む。女性秘書でがんばる華凛もゆるは気の毒なことにステロタイプなセクシーガールで、石田演出の悪い部分。その部分はラジオでプロパガンダする東京ローズのセリフにもあるが、美風舞良はローズの悲しさを後半でよく見せた。また今回で退団する音乃いづみが、ブギの女で笠置シズ子の歌を歌っている。芝居もできる人だからもっと場面がほしかったが、かろうじてソロがあったことで救われた。
最後になったが、全場を通して振付けをしている藍エリナの、場面に応じた仕事ぶりも見事だった。
この『黎明の風』は、戦争や戦後の混乱をいくつかのシーンで見せているので、その群衆に扮する出演者たちの迫力が大事なのだが、1人1人が細かい演技をして、その状況をなんとか作ろうといているのが伝わってくる。また群舞では寿つかさや珠洲春希などのダンサーが牽引者になっている。そんな宙組の迫力が、この舞台の最後の「平和への祈り」の大合唱に結実していて、この作品を今の宙組で上演した意味になり、また大きな成果となった。(文・榊原和子/写真・岸隆子)
(⇒『Passion 愛の旅』レビューへ続きます。)
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◆宝塚歌劇宙組公演◆
ミュージカル・プレイ
『黎明(れいめい)の風』-侍ジェントルマン 白洲次郎の挑戦-
作・演出/石田昌也
グランド・レビュー
『Passion 愛の旅』
作・演出/酒井澄夫
・宝塚大劇場公演(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:2月8日(金)~3月17日(月)
・東京宝塚劇場公演(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:4月4日(金)~5月18日(日)
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投稿者 宝塚プレシャススタッフ 2008/02/22 1:17:00 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (0)
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