榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
リアルな青年像の青樹、夢見る少年のような明日海 『ホフマン物語』
月組バウホール公演『ホフマン物語』
1月2日(水)~1月13日(日) 明日海りおバージョン
1月19日(土)~1月29日(火) 青樹泉バージョン
『ホフマン物語』の初演は78年4月、バウホールが誕生しての第1作目だった。その年の夏に退団公演を控えていた安奈淳が17日間主演したあとを、同じ花組の当時の若手スター寿ひずるが引き継いで5日間主演をつとめた。
ともに歌手として名高い男役スターだからこそこなせたオペラの難曲を月組メンバー、とくに主演の青樹泉と明日海りおがどう歌いこなすか(今回はさらに十数曲増えている)、また幻想的でトリッキーなドラマを、どこまで自分たちの物語として消化するか、そこがこの舞台のみどころだったと思う。その難易度の高い舞台を、しかも4パターンの役代わりがあるというハードななかで、若さというエネルギーで「歌う・演じる・踊る歓び」に変えた出演者たち。その姿を観るだけでも価値のある舞台であり、同時に音楽の持つ力に酔わされた公演だった。
今回、4パターンのうち2パターンを観ることができたので、その部分のみレポートする。
物語の構成は、詩人ホフマンの恋の遍歴を3つの場面で見せる。
最初の物語は「ドイツ南部のフォルンゲン湖畔の歌姫アントニア」。胸の病で歌うことを禁じられた恋人アントニアを救おうと、ホフマンは結婚を申し込むが、医者に姿を変えた悪魔の囁きで歌うことに抗いきれず、アントニアは歌いながら死んでゆく。
2番目は「ローマにのゼンマイ仕掛けの人形オランピア」。物理学者の作った自動人形とは知らず窓辺の女性に恋したホフマンは、悪魔に売りつけられたメガネで彼女を生きた人間と思いこんでしまう。だが、2人きりでダンスを踊ると、だんだんテンポが狂いはじめるオランピア。やがて壊された人形を見て、やっとホフマンはその事実を知る。
3番目は「ヴェネツェア運河での娼婦のジュリエッタ」。高級娼婦のジュリエッタは、宝石のために自分の周りの男たちの影を悪魔に売っていた。そして次の獲物、ホフマンを誘惑する。彼女に魅せられて自分の影を与えるホフマン。そのうえ彼女の情夫のシュレーミルと決闘することになり彼を倒すが、そんなホフマンをあざ笑うかのように、ジュリエッタはゴンドラに乗り運河を遠ざかっていく。
その3つの恋物語を、ホフマンが「ニュールンベルクのオペラハウスの隣の酒場」で話すという形で、そのプロローグとエピローグには、現在の恋人ステッラの話も出てくる。つまり4人の女性たちとの愛や別れが描かれていて、その絶望のなかで、ホフマンは詩人としての自分の使命と魂に目覚める。それがこの物語のあらすじである。
見どころは各場面で姿を変えて現れる悪魔とホフマンの対決、そして滑稽だったり哀れだったりする彼の恋模様。また劇中で歌われる有名な「舟歌」、悪魔が歌う「ダイヤモンドの歌」、オランピアのアリアやアントニアの歌うロマンスなどの歌曲はどれも美しく、心に響いてくる。
青樹泉はホフマンと悪魔を演じていて、ホフマン役はリアルな青年像として浮かび上がる。恋愛にのめり込んでいく激情と、傷ついてもなお愛を求める詩人の破滅への傾斜が、生々しいのが青樹ホフマン。この人の芝居心はコメディでとくに際立っていたが、苦悩も思いがけなく似合って堂々たる二枚目だった。歌も芝居的で、説得力がある。明日海バージョンで演じた悪魔は、 『エリザベート』のトートを思わせる冷たさと、支配力を感じさせる大きさと色気が見えた。もう少し化粧とカツラの工夫ではさらに耽美な面も強くなったかもしれない。
明日海りおのホフマンは、少年っぽく夢みがちな詩人の魂を感じさせる。歌唱は素直で「クラインザックの伝説」などは甘さがある歌声で大健闘。明日海のホフマンには“恋を恋する詩人”とでもいうような非現実感があって、悪魔や美女たちに翻弄されること自体が美しい悪夢といった感じになる。青樹バージョンでは、ホフマンを見守るミューズが美しい。だがミューズが化けたホフマンの親友ニクラウスでは、脇役に徹しているせいかやや華を消し気味。もっと存在を主張していいだろう。
ホフマンが恋するヒロインたちは月組娘役ならではの個性派揃い。
夢咲ねねは、オランピアとアントニア (ジュリエッタは未見)で、明るく華やかな資質としてはオランピア向きなのだが、悲劇のアントニアがなかなか可憐で、宝塚のヒロイン芝居もできるのを実証した。歌唱力はやや不安定さが残る。
美鳳あやはジュリエッタとミューズ(オランピアとステッラは未見)。ミューズはたおやかで優しげで、ジュリエッタは妖艶。その妖艶のなかに憂いのようなものも見えて、大人びた美しさだった。ダンスの人だが歌唱力もある実力派ぶりを示した。
青葉みちるはジュリエッタ、(アントニアは未見)、それと未沙のえるの3役に仕える召使いの3役。この公演が退団公演で残念だったが、持てる魅力の全てをぶつけるように、演技も歌唱も精いっぱい見せた。ジュリエッタではホフマンに向ける眼差しに哀れみに似たものを感じさせ、召使いでは、どの場面でも楽しげな様子が印象的だった。
羽咲まなはアントニアと(ステッラは未見)その母親役、アントニアのソロを綺麗に歌い、また病弱な面をよく感じさせた。花陽みらのオランピアは静止した人形では可愛らしく、突然動きだしてホフマンを翻弄する場面では不気味さを熱演したが、やや幼いイメージが残る。アントニアの母親とステッラの萌花ゆりあは、大人びた清楚さが役に似合っていた。
青樹バージョンで、ホフマンと並ぶ大役の悪魔を演じているのは星条海斗。動きの美しさやクールな力強さで目を奪う。見せ場の「ダイヤモンドの歌」もテンション高く歌い、リズムを感じさせた。もし足りないとしたら情緒的な部分か? 悪魔の中の翳りのようなものがあればより魅力が増したはず。召使いの3役では楽しげに、またジュリエッタを争うシュレーミルは殺意を感じさせ、芝居好きな資質が伝わってきた。
明日海バージョンでホフマンの親友のニクラウスを演じたのは宇月颯、歌も芝居も達者で成長株。青樹バージョンで演じたシュレーミルは、恋に狂い影を無くした不気味さが見えた。
そのほかには、学生仲間や影法師Sで活躍する流輝一斗、同じく影法師Sの麗百愛の抜群のダンス力は、目を楽しませてくれる。学生仲間の五十鈴ひかり、酒場での歌唱で目立つ煌月爽矢や輝城みつる、ステッラの琴音和葉、そのほか4パターンのなかで忙しく何役も演じた若手たちは、玲実くれあ、瑞羽奏都、白雪さち花、千海華蘭、真愛涼歌、鳳月杏、輝城みつる、紗那ゆずは、星輝つばさといったメンバーで、人形や士官や娼婦や影法師となって場面を支えていた。
また忘れてはならないのが両バージョン通し役で大活躍した未沙のえるで、ルーテル(酒場の親父)・クレスペル(アントニアの父で指揮者)・スパランツァーニ(物理学者)・ピティキナッチョ(ジュリエッタの召使い)という各役を通して、この作品の力強いアクセントであり重しにもなっていた。
ソロだけでなくデュエットや重唱が全編を通じて散りばめられているこの舞台で、4パターンの公演は、役作りだけでなくそれぞれの歌のパートの変化したはずだ。そんな経験をしたことで、個人の力も組の実力も底上げできただろう。30年前、バウホールという実験空間が開いたとき、選ばれるべくして選ばれた『ホフマン物語』。その意味を今回改めて納得させられる舞台だった。(文・榊原和子/写真・岸隆子)
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投稿者 宝塚プレシャススタッフ 2008/03/03 14:06:23 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (0)
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