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2008年3月28日 (金)

中本千晶のヅカ★ナビ!

《中級編》タカラヅカで読み返す名作文学

レベル:★★☆(中級編)
分野:近代文学
対象:かつての文学少女そして文学青年よ集え!

森鴎外の名作「舞姫」がタカラヅカで上演された。
昨年6月に宝塚バウホールでの上演が好評だったため、今年3月、東京の日本青年館での再演が決まったのだ。

舞姫」といえば、高校の国語の教科書にも載っている名作。だが、その名作を熟読したことのある人は意外と少ないのではなかろうか?
私だって「ウンテル・デル・リンデン」という古風な響きとともに、「主人公がヒドイ男だった」ということだけが印象に残っている程度だった。

あらすじはざっとこんな感じ。
主人公の太田豊太郎は帝国大学を主席で卒業、真面目を絵に描いたようなエリート官僚だ。ところが、留学先のベルリンで金髪青い目の美しい踊り子エリスと恋に落ち、やがてエリスは豊太郎との子を身ごもる。官職をクビにされても一時はエリスとの愛の日々を選んだ豊太郎だったけど、友人相沢謙吉の説得で次第に目を覚まし、日本での栄達の道を選択する。豊太郎の裏切りを知ったエリスは気が狂ってしまう。

さて、この「舞姫」、タカラヅカという触媒を通すと、いったいどうなるのか?
原作とどこが違うかをチェックし、原作と変えた演出家の意図を考えてみるのもタカラヅカ流の楽しみ方である。
「舞姫」の場合を具体的にみてみよう。

なんといっても太田豊太郎(愛音羽麗)が断然カッコいい。原作では、
「倶(とも)に麦酒(ビイル)の杯をも挙げず、球突きの棒(キユウ)をも取らぬ」
堅物であり、
「余所に心の乱れざりしは、外物を棄てゝ顧みぬ程の勇気ありしにあらず、唯(たゞ)外物に恐れて自らわが手足を縛せしのみ」
という情けない男だ。
だが、タカラヅカ版の豊太郎は違う。ドイツのサロンでおしゃべりを楽しみ、パーティーでドイツの貴婦人とのダンスのお相手もさっそうとこなしてしまう粋な男である。

「余に詩人の筆なければこれを写すべくもあらず。この青く清らにて物問ひたげに愁(うれひ)を含める目(まみ)の、半ば露を宿せる長き睫毛(まつげ)に掩(おほ)はれたるは、何故に一顧したるのみにて、用心深き我心の底までは徹したるか」

と描かれるエリス(野々すみ花)は、まさに原作から抜け出てきたような風情だった。
だがタカラヅカ版のエリスは、もともと精神的に病んでいたという設定である。一時期回復していたのが、豊太郎との別れのショックで病が再発したというのだ。豊太郎との子を身ごもったというのも、結局エリスの妄想だったということになっている。

また、友人相沢のすすめで豊太郎に与えられる仕事は、原作ではただの翻訳業だが、なんと大日本帝国憲法の草案作成に関わる重大なミッションに拡大されている。

さらに、豊太郎の生き様に説得力を持たせるために登場するのが、原芳次郎(華形ひかる)という原作にはない画家だ。
豊太郎と対照的な生き方を選択する芳次郎は、はじめは豊太郎にとっての理想である。だが、原の惨めな最期をみて豊太郎は日本への帰国を決意する。

「嗚呼、相沢謙吉が如き良友は世にまた得がたかるべし。されど我脳裡(なうり)に一点の彼を憎むこゝろ今日までも残れりけり」
原作ではこう結ばれる憎まれ役の相沢謙吉(未涼亜希)。
だが、朗々とした声で「愛よりも、命よりも、大切なものがあるのだ」と歌われると、「そ、そうかもしれない……」と思わず納得してしまう。

こうした種々の設定変更が、エリスを捨てる豊太郎の罪を多少軽くし、美化してくれているように思えた。
タカラヅカ版で描かれるのは、あくまで、「ひとときの夢の日々」から訣別し、国家の未来のために我が身を投じていく凛々しい男の姿である。
要するにタカラヅカでは「主な登場人物をよりカッコよく、美しく見せるため」「物語をよりわかりやすくするため」のだいたい2つの意図で原作の改変が行われるのだ。

・・・てなことをつらつらと考え、調べるために、「舞姫」の原作を何度も読み返してしまった。

思いがけず名作を堪能してしまった私の想いは高校時代のように単純ではない。
人生はときに豊太郎のように他人の幸せを踏みにじり、苦い選択をしなければならないときもある、とも思う。
そんな私は高校時代より多少成長したのかもしれない。

勉強熱心なヅカファンのこと、同じような行動パターンを取った人も少なくないはず。
この春、「舞姫」が密かなブームです!?(中本千晶

☆ステップアップのための宿題☆
「舞姫」は原稿用紙にして50枚程度の短編。下記のサイトでダウンロードして読むこともできるので、興味ある方はチャレンジしてみては?

青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/

投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2008/03/28 10:00:00 中本千晶のヅカ★ナビ! | | トラックバック (0)

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