榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
みんなに勇気を与えてくれるミュージカル 月組『ME AND MY GIRL』
月組宝塚大劇場公演
『ME AND MY GIRL』
(3/21~5/5 宝塚大劇場)
話題作『ME AND MY GIRL』が大劇場で好評上演中である。途中でジャッキーの役替わりがあり、その両方を観たレポートになる(写真は明日海りおジャッキーのもの)。
『ME AND MY GIRL』は、宝塚では5回目の上演。最初は剣幸・こだま愛で87年に初演と再演。再々演は95年に天海祐希と麻乃佳世。その直後の96年の中日公演を久世星佳と風花舞。以上の4回すべてが月組公演だった。そして今回も月組で、13年ぶりの上演である。版権やスポンサー側の希望や事情、ふさわしいキャスティングなどの諸条件から、なかなか実現しなかっただけに、公演実現への出演者や客席の喜びがストレートに伝わってくる。また、初舞台を踏んだ第94期生44人が、オープニングの口上やロケットダンス、さらに「ランベス・ウォーク」の2階客席降りや、2幕初めのタップなどで活躍。元気な姿が、このミュージカルをさらに明るく楽しく盛り上げている。
物語は1930年代のイギリス。ロンドンのヘアフォード伯爵家に世継ぎとして迎えられた下町育ちの若者ビル。彼には「俺と俺の女の子」と自慢する恋人のサリーがいた。そんなビルに遺言の執行人である公爵夫人マリアとその友人のジョン卿は、屋敷の当主にふさわしい貴族になるためのレッスンを行う。また、マリアの姪ジャッキーはその婚約者ジェラルドを捨てて、ビルを誘惑しようと考える。そんななかで、サリーはビルのためには自分がいないほうがいいと考え、ある日、ヘアフォード邸を出ていってしまう。サリーを必死に探すビル…。
観れば観るほどよくできている作品である。ストレートに心に染み込む楽曲、ピュアにお互いを思い合うカップル、その周辺の人々の人間くささ。誰も悪くないのに最後までドキドキハラハラさせられて、笑えて泣ける。そういう意味では「ハッピー・ミュージカル」とは、単純にハッピーエンドで終わるというだけではなく、人生を考えさせ勇気を与えてくれるものだということを、この舞台は教えてくれる。また、ややメッセージ性は薄められているが、英国の階級制度を風刺する側面もあって、英国産ミュージカルならではの味わいも感じられる。
主人公のビルを演じているのは瀬奈じゅん。最初の登場で、下品にならずに“下町のあんちゃん”をやってのける、それだけでビル役としては成功である。また、ビルはランベス育ちを誇りに思う反骨と自分の血筋への畏敬も同時に持ち合わせていて、意外にバランスのよい面があるのだが、瀬奈じゅんという役者の持つ批評性がそれを成立させている。初日あたりでは小道具の扱いに手こずっていたが、後半慣れてきた。楽曲も伸び伸びと歌っていて頼もしく、サリーへの愛を切々と歌う「街灯によりかかって」は優しくて涙を誘う。ジャッキーとの関係では、城咲バージョンでは下町風のくだけたビルだが、明日海バージョンではやや気おくれしているように見えるのも面白い。
彩乃かなみのサリーは、がさつさを無理に出そうとする部分が薄れて、いじらしく素朴なサリー像になっている。これが退団公演となるだけに、持てる力をフルに出していて、「ランベス・ウォーク」の下町仲間を率いての求心力、2幕初めの「顎で受けなさい」の心のこもった歌唱などは本領発揮といったところ。最後の変身での、毅然とした喋り方への変貌と気品も忘れがたい。
中年貴族ジョン卿を演じるのは霧矢大夢。階級社会のなかで、もっとも自由に生きるジョン卿の懐の深さと、男としての色気を十分に感じさせて魅力的だ。ビルの瀬奈じゅんとの絡みでは、かけ合いのうまさを堪能させてくれるし、男2人のデュエット「愛が世界をまわらせる」の楽しさは圧巻。恋人マリアの出雲綾とは、どうしても年齢差が見えてしまうが、包みこむ男の包容力は出ている。
マリア公爵夫人は出雲綾、この人も退団公演になる。セリフの明晰さや芝居心は定評があるし、遺言執行人らしい押し出しのよさという点では適役。ビルを次第に理解していくプロセスも、無理なく見せている。そんな芝居巧者がジョン卿との色恋の部分にはややテレがあるようなところはご愛嬌か。
パーチェスターの未沙のえるは、初演で絶賛されただけあって、このミュージカルを観る楽しみの1つといってもいいほど、大きな存在感を見せている。間のよさ、ウイット、軽妙な動き、どれもわざとらしくないのにユーモラスで、この作品の色を作り上げる大きなファクターになっている。
遼河はるひ演じるジェラルドは、公爵夫人の甥でジャッキーの元フィアンセ。この役はなかなか難しい。恵まれた育ちの青年のおっとりした部分と無神経さをイヤミなく出さなければならない。しかも舞台上では強烈な個性のジャッキーと互角に渡り合うポジションにいる。遼河は天然のオトボケ風を狙っているようだが、できれば内面に貴族の誇りと傷つきやすさを踏まえてそうなるジェラルドであってほしい。
ジャッキーは城咲あいと明日海りお。今回のこの2人のキャスティングは、『ME AND MYGIRL』の大きな見どころだろう。これまで男役が演じてきたジャッキーを娘役の城咲あいが演じること自体話題だし、また若手男役として売り出し中の明日海りおが女役をどう演じるかも注目の的だった。結論から言えば、明日海ジャッキーはキレイで可愛いが野心が不足しているし、城咲ジャッキーは色っぽいが無邪気が不足している。ジェラルドに婚約指輪を投げ返し、きわどいポーズでビルを誘惑するジャッキーは、もっとモンスター的な可愛らしさや面白さがあっていいし、カリカチュアされた存在でいい。ビルの気持ちなど考えず突進するジャッキーだからサリーは脅威に感じるのだろうし、ビルも困りつつ相手をしてしまうのだ。そして一番肝心な部分なのだが、ジャッキーが普通人に近いと、ジェラルドのお仕置きがシャレにならないのだ。現代人の感覚では抵抗を感じる暴力(音と声だけだが)も、手に負えないモンスター・ジャッキーなら成立する。そういう点も含めて、今回の2人のジャッキーは女性として魅力的だが、物語のアクセントとしては物足りない。キャスティングというのは難しいものである。
主要なキャラ以外はほとんど描かれないのが、既成のミュージカルの難点だが、この『ME AND MY GIRL』はその楽しさがアンサンブルの歌唱や登場シーンに負うところが大きい。そんなアンサンブルも含めて、他のキャストも紹介していこう。
お屋敷の執事・ヘザーセットに越乃リュウ。この人は最近とみに含蓄のある演技をするようになってきた。下町育ちのビルでも当主として心からリスペクトしている姿には、仕事に誠実な男が持つ風格がにじみ出る。
男役の若手たち、桐生園加、青樹泉、星条海斗、龍真咲、光月るう、流輝 一斗は、ジャッキーを囲む仲買人グループやテニスプレーヤー、またランベスの男たち、街角の幻想の男たちなどで忙しい。桐生は、ランベスキングでは貝ボタンの派手な衣装で登場。1幕の警官役や幻想の男に研ルイス。サリーがお屋敷を去る決意をするパブ「ヘアフォード・アームス」のマスター・姿樹えり緒は、これで退団なのが残念。2幕の図書室に出てくるご先祖様は、良基天音、姿樹、麻月れんか、榎登也、綾月せり、彩央寿音。
娘役たちでは、チーフメイドの音姫すなおが華やかでメイドたちの長で引っぱる。テニスの女性プレーヤー、ランベスの女、幻想の女など、ダンサーとして活躍するのが、美鳳あや(下宿のブラウン夫人も)、涼城まりな、美夢ひまり、萌花ゆりあ、夏月都、麗百愛、蘭乃はななどで、涼城はランベスクィーンも担当している。
下級生で、お屋敷のコックに麻月、沢希理寿、紫門ゆりや、羽咲まな、玲実くれあ、キッチンボーイに榎と千海花蘭、キッチンメイドに琴音和葉と咲希あかね、運転手に流輝と貴千碧(靴磨きやヴァイオリン弾きも)、召使いに美翔かずき、響れおな、彩星りおん(街灯係も)など、若手たちがちょこちょこ使われている。
上流階級の人々は、かわいくて実は懐の深いジャスパー卿に北嶋麻実、この人も今回で退団するのが寂しい。英国貴族のいい意味での俗っぽさが見えるバターズビー卿夫妻に一色瑠加と憧花ゆりの、同じくディス夫人に花瀬みずか。ビルの当主披露パーティに姿を見せる上流階級の人々は、ブライトン氏を良基、娘のソフィアに城咲(明日海と役替わり)、名前を連呼されるワーシントンワーシントン夫人に天野ほたる、星組から異動の羽桜しずくは、令嬢のメイで気品ある容姿を見せている。
そして素晴らしいのは、ここに名前を挙げた人もそれ以外の人たちも、上流階級から下町ランベスまで登場して活躍していることだ。各場面の合唱ナンバーを歌い、同時にそれぞれの社会の色を作り出す役割りを果たしている。そんなアンサンブルたちのパワーの結集が、この作品の大きく支えているのだ。
そして、どちらかといえば豪華さに欠ける舞台だけに、最後に付くフィナーレがいかにも“タカラヅカ”という華やかさと優雅さがあるのが嬉しい。
まず青樹と龍と城咲(明日海と役替わり)が登場、銀橋で「ミー&マイガール」を歌い、次に登場する初舞台生のロケットを紹介する。44名の初お目見えのロケットは若央りさの振付け、シンプルだが可愛らしく見応えがある。続いて霧矢と明日海(城咲と役替わり)が銀橋を「私の手を握って」を歌いながら歩き、本舞台で8組のカップル(遼河、桐生、青樹、星条、龍、光月、流輝、宇月颯/美鳳 、涼城、音姫、憧花、萌花、羽桜、麗、蘭乃)とともに踊る。
そしていよいよビルとサリーのデュエット。大階段で瀬奈が「一度でも、あなたがハートの、居どころなくしたら」と歌うと、セリ上がりで彩乃が登場、流れるような2人のダンスは大技のリフトも綺麗に決めて銀橋へ。このコンビの姿もこの作品で見おさめとあって、名残り惜しむような熱く大きい拍手が2人に送られる。
エトワールは出雲綾、劇場空間いっぱいに朗々と広がる美しい歌声に盛大な拍手が湧きあがる。そしてパレード。どの曲も心躍るような楽しい主題歌を、次々に歌い継いで降りてくる月組生たち。もちろん客席も手拍子で参加して、ハッピー・ミュージカルならではの幸せをふりまきつつ、『ME AND MYGIRL』は幕を降ろした。(文・榊原和子/写真・岸隆子)
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◆宝塚歌劇月組公演◆
UCC&シャディミュージカル
『ME AND MY GIRL』
Book and Lyrics by L.ARTHUR ROSE and DOUGLAS FURBER
Music by NOEL GAY
Book revised by STEPHEN FRY Contributions to revisions by MIKE OCKRENT
作詞・脚本/L・アーサー・ローズ&ダグラス・ファーバー
作曲/ノエル・ゲイ
改訂/スティーブン・フライ
改訂協力/マイク・オクレント
脚色/小原弘稔
脚色・演出/三木章雄
・宝塚大劇場公演(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:3月21日(金)~5月5日(月)
・東京宝塚劇場公演(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
公演期間:5月23日(金)~7月6日(日)
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投稿者 宝塚プレシャススタッフ 2008/04/27 22:29:20 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (0)
























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