中本千晶のヅカ★ナビ!
《中級編》たくましい女?楚々とした男?
レベル:★★☆(中級編)
分野:性差の科学
対象:お父さん、お母さん、娘がブルーの、息子がピンクのランドセルを選んでも動揺しないこと。
東京宝塚劇場では、いよいよ話題作「ミーアンドマイガール」が幕を開けた。
ロンドンの下町出身のビルが、大金持ちのヘアフォード伯爵家の落とし胤だということが発覚、すったもんだの末に跡継ぎとして認められ、恋人サリーともハッピーエンドを迎えるという男性版シンデレラストーリー。
さてここに、ジェラルドという婚約者までありながら、伯爵家の財産目当てでビルに色仕掛けで迫りまくるジャッキーという令嬢が登場する。
こう書くと、いかにもイヤな奴だが、根は素直でわかりやすい女の子。多少わがままで気が強いけれど、そこもまたジェラルドにとっては可愛いところなんでしょう。
このジャッキーという役、なぜか男役が演じることが多い。1987~88年の初演版では涼風真世の当たり役だった。そっか~、お由羅さま(NHK大河ドラマ「篤姫」で涼風が演じる、薩摩藩分裂の危機の原因とされる美女)のルーツはここにあったんですね。
1995年の再演では、真琴つばさ。そして、今回の公演では役替わりだが明日海りおが演じている。
どうしてジャッキーは男役なんだろう? 理由を考えてみた。
宝塚の娘役さんは常に男役を立て、実際の女性以上に女らしくあることが求められる。したがって楚々と控えめな演技が身についている人が多い。
したがって、ジャッキーのように押し出しが必要な役は、男役がやったほうがインパクトがあるし、色仕掛けで迫る場面も変にリアルにならず、コミカルに見せられるからではないだろうか。
同様に男役が演じることが多い役の代表格が、「風とともに去りぬ」のスカーレット・オハラである。この役もジャッキー以上にわがままで自己主張が強く、戦乱の時代をたくましく生き抜く女性だから、男役が演じてちょうどいいくらいなのだ。
男役が演じる女性たちはいずれも、女からみて魅力的なキャラクターが多い。
ただし、男役が演じる女性、プログラムなどの写真は美しいのに、いざ舞台でみると多少の違和感を覚えてしまうことも多い。
この違和感、理由の第一は声、第二は肩から二の腕のあたりの逞しさのせいだろう。
常に男らしく歌い、娘役さんをリフトでぐるぐる回したりしている男役さんは声も低いし、筋肉も鍛えられているのである。それを突然、鈴の音のような声の華奢な女の子に戻れといわれても無理な話だ。
したがって男役が演じる女性の衣装はすべて肩から腕のあたりをできるだけ露出しない仕様になっているが、それでもやっぱり逞しいものは逞しい。
この、おネエマン的違和感も含め、一般の観客としてはたまに「男役がやる女性」をみるのは興味深いものであるが、当の男役のファンとしては、それがどんなにいい役であっても複雑な心境だ。
ファンとしてはやっぱり一公演でも多く「素敵な男役」を堪能したいものなのだ。
だが、男役本人にとっては、こうした経験はその後の男役のキャリアにも非常に役に立つものらしい。
なぜなら、娘役さんの苦労や、男役に求められる配慮などが身をもって理解できるからだ。
ちなみに瀬奈じゅんは、じつは、2002年にはスカーレット・オハラ、そして2005年にはエリザベートと、なんと宝塚を代表する大役を2つも経験している。
サリーを包み込むようなビルのあの包容力にも、この経験が必ず生きているに違いないのだ。(中本千晶)
☆ステップアップのための宿題☆
明日海りおとともに役替わりでジャッキーを演じる城咲あいは、宝塚史上初の娘役ジャッキーということになります。男役がやるジャッキーと娘役のジャッキーがどう違うのかを見比べるのは、今回の公演ならではの楽しみです。
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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2008/05/23 11:00:00 中本千晶のヅカ★ナビ! | Permalink | トラックバック (0)