中本千晶のヅカ★ナビ!
《中級編》今、そこにいるボニー&クライド
レベル:★★☆(中級編)
分野:格差社会を考える
対象:「下流社会」を読んで危機感を感じてる人、「蟹工船」を思わず買っちゃった人。
宝塚歌劇というところは、浮世の夢物語を常に上演しているところだと思われがちだけど、実際には宝塚もまた時代の波に翻弄され続ける存在だ。
このたびバウ・ワークショップで再演された「凍てついた明日 ~ボニー&クライドとの邂逅」もまた、今という時代との関係性を抜きにしては語れない作品だった。
作品の舞台は1930年、大恐慌時代のテキサス州ダラス。大量の失業者が発生し、街中が不景気に喘ぐ時代。強盗そして殺人を繰り返し、破滅への道を突き進むことしかできない男女の物語。
アメリカで実際に評判になった事件を題材にし、映画「俺たちに明日はない」でも有名な話だ。
1998年に初演されたときは、娯楽作品としてもっと純粋に楽しめたような記憶がある。
「あれは20世紀初頭のアメリカの話」と割り切って観られた。とりわけ月影瞳の凛としたボニーが印象的だった。
だが、このたびの再演版はどうも勝手が違う。
息子を溺愛するクライドの母親が、ただひたすら「時代が……悪いのよ」 を繰り返す。その愚かなつぶやきが、やけに胸にこたえるのだ。
気になったから、初演のビデオを再び見直してみた。
初演のボニー&クライドは大人の男女だ。香寿たつきが演じたクライドは、いくつかの人生経験を経たうえで、自ら覚悟を決めて破滅への道を選んだ感じがする。ボニーを見つめる眼差しには包容力さえ感じられる。
だが、凰稀かなめのクライドは、もっと幼くて危うい。
劇中でボニーの母親(五峰亜季)がクライドのことを「すました顔をして人を撃ち殺す目をしている」 と評する、まさにそういう目をしたクライドなのだ。
このうつろな目と、唯一心を開ける存在である姉ネル(涼花リサ)の前でだけふと見せるこぼれんばかりの笑顔、その落差が恐ろしい。
いっておくけどクライド役の凰稀かなめは今の宝塚期待の美形スターだ。その美貌が思いがけない方向に生きていることにギョッとする。
そんなクライドと対照的な存在として描かれるのが、幼なじみのテッド(緒月遠麻)。
暗いご時世のなかでも前向きにがんばり、今では保安官としてクライドと対峙する。このたびの再演で、最も存在感を増したのが、このテッドの役だ。
「俺たちは、紙一重だった……」
このテッドのつぶやきに、さらにギョッとさせられた。
偶然にもそれは、私が少し前に読んだブログで目にした表現とまったく同じだったからだ。それは、ある若い男性が例の秋葉原での悲惨な事件についてつづったブログで、「俺たちは紙一重だった」と結ばれていた。
どうやら今のご時世、ボニー&クライドはさほど遠い存在ではないらしい。むしろ今どきの若者と「紙一重の存在」なのではあるまいか?
初演と再演の一番の違いは何といってもボニー&クライドの「愛の顛末」だ。
初演では、銃撃音で二人の死が暗示された後に、お約束の白い衣装に身を包んだ二人が登場する。
クライドがボニーに「愛している」 と告げ、ボニーはそれを受け入れ、二人はしっかり抱き合う。二人の愛はあの世で成就したのだ。
だが、再演版では二人は抱き合わない。「誰でもよかった」ふたりは手を取り合って前を向き、ライフルの待ち受ける道を歩いていく。
道すがら、やっとボニー(愛原実花/大月さゆ)が小声で囁く。
「愛してる……」
だが、クライドは答えない。最期までボニーを愛したのかどうかはわからない。そして激しい銃撃音。
初演版はボニー&クライドという男女の物語だった。そこで焦点が当てられたのは個人としての愛と孤独だった。
だが、再演版で描かれるボニー&クライドは、むしろ暗い世の中のひずみの落とし子として描かれる。
そこには演出家の荻田浩一の「現代社会」への強烈な意識が感じ取れる。演出家は再演版の「凍てついた明日」を、まさに「今」この時代ならではの作品としてよみがらせたのだ。
「格差社会」が時代のキーワードとなり、「蟹工船」がベストセラーになってしまう今、この作品を「20世紀初頭のアメリカの話」とは割り切ってみることはできない。
初演では出演者がスーツに身を包んで踊る粋なフィナーレがついていたが、今回はそれもなし。いつものように甘い夢に酔うことも許されてはいない。
幕が降りた後、観客もまた「今」この社会に向き合わざるを得ないのだ。(中本千晶)
☆ステップアップのための宿題☆
宝塚歌劇では、意図的に時代のトピックを作品に使う演出家も少なくありません。
たとえば、2002年の雪組のショー「ON THE 5th」では、9.11事件の犠牲となった恋人たちが描かれていたし、2003年の星組「王家に捧ぐ歌」はオペラのアイーダを原作とするものの、作品の舞台であるエジプトが現代アメリカ、アイーダの故郷エチオピアがイラクに見立てられていることは明らかで、反戦メッセージが強く込められた作品でした。過去の作品のDVDをみるときは、その時代の空気を読みながら観るといっそう楽しめるかもしれません。
投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2008/06/27 11:00:00 中本千晶のヅカ★ナビ! | Permalink | トラックバック (0)





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