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2008年6月 4日 (水)

榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー

真飛聖と花組の新しい魅力 『愛と死のアラビア』

花組宝塚大劇場公演(5月9日~6月16日)
『愛と死のアラビア-高潔なアラブの戦士となったイギリス人-』

 花組の印象が一新された。演目のせいもあるが、若さと熱が表に出ている。お披露目公演の真飛聖を真ん中に、月組から異動の大空祐飛プレお披露目の中日公演から真飛を支えてきた壮一帆愛音羽麗未涼亜希といったメンバーが、いっせいに走り出したような勢いがある。ヒエラルキーというよりも横並びに近いこのフラットな魅力は、“今の花組”ならではの色で、このまま遠慮せずに個性の競い合いを見せてほしいという気になる。

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 2本立ての1本は、芝居の『愛と死のアラビア』。ローズマリー・サトクリフの「血と砂」からアレンジした物語は、男同士の友情がメインテーマ、そこにラブロマンスが色づけとしてあるといった感じで、物語の着地点には難があるが、それとは別に、真飛聖の男気あふれる一面にうまくフィットして、男役らしい魅力を見せることには成功している。

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 物語は1807年、オスマン・トルコ支配下のエジプト。戦闘で負傷したスコットランド軍狙撃手のトマス・キースは、地中海沿岸にある太守の館に捕虜として収容されていた。だが「ハヤブサの目を持つ男」と言われるトマスの腕を認めた太守の息子イブラヒムにより、彼の弟トゥスンとともに砂漠の狼ベドウィンの騎兵隊を訓練するよう命じられる。その地に赴く途中、トマスは戦利品として扱われる女性アノウドとその侍女を助け、アノウドとの間にいつしか心が通い合うようになる。だが一方で、イギリス人を面白く思わない一派にとって、トマスは邪魔な存在として疎まれていた。

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 真飛聖のトマス・キースは、スコットランド人らしい熱情と勇ましさがあり、イブラヒムと対するときは雄々しく、トゥスンや友人のドナルドには親しみやすい明るさを、太守夫人には甘えを見せるなど、いろいろな顔をうまく使い分けている。主題歌も手堅く歌いこなしているが、さらに情感が出ると異国でのトマスの孤独が増すだろう。桜乃彩音とのコンビは、どこか幼なじみというような感覚があり面白い。

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 桜乃彩音のアノウドは、家柄のいいアラブ女性らしい気品と、囚われの身の哀れさがよく出ている。出番はあまり多くないが、真飛との場面は息が合っていて、とくに終盤のひたむきさといじらしさには泣かされる。課題の歌は、心は伝わるのだから、まず自信を持つことが大事だろう。

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 太守の長男のイブラヒムは、月組から組替えの大空祐飛。ヒゲをつけた立役系の役どころだが、貫禄もあり、内に秘めた情も感じさせて好演。真飛との芝居の相性もよくて、大人びた部分が魅力の男役スターの加入は、花組の演目の幅を広げてくれそうだ。

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 イブラヒムの弟のトゥスンは壮一帆。友情に篤い青年で、育ちのよさからくる真っ直ぐな性格は持ち味に重なり、のびのびと演じている。アラブの衣装もよく似合って美しくて華やか。耽美や影が演じられる大空と好対照で、これからこの人のスタンダードな二枚目部分が個性として出やすくなるだろう。

 イギリス軍医のドナルドは愛音羽麗、友人のトマスと捕虜としてともに暮らしながら、最後に彼を残していく悲しみを深く描き出し、強い印象を残す。甘めの男役という容貌がここ何作かの経験で深みのある表情に変わってきた。

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 そのほかの男役は大きく分けると、トマスが指揮することになるベドウィン騎馬隊と、反トマス派に分けられる。主なベドウィンたちには、悠真倫、未涼亜希、華形ひかる、真野すがた、望月理世、朝夏まなと、日向燦、白鳥かすが、扇めぐむ、夕霧らい、祐澄しゅん、彩城レアなどがいる。ほとんどのメンバーがヒゲをつけているうえ、集団としての動きなので個性を峻別しにくいのが残念。
 砂漠の狼の歌やダンスは勇猛。メンバーのなかでは、未涼が弟を殺された恨みを語るセリフの直情や、女を戦利品扱いする華形の荒っぽさがインパクトがある。またトマスを慕うヤシム・望海風斗や下男のメドヘッド・嶺乃一真なども目につく。

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 オスマン帝国への忠誠からトマスと敵対する側には大伴れいか、高翔みず希(休演でこの日は初輝よしやが代役、現在は日向燦)、眉月凰、貴怜良、紫峰七海などがいて、 なかでも眉月はトマスを決闘に追い込む色濃い悪役を演じてアクセントになっている。

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 娘役もほとんどのメンバーが集団で登場するのだが、太守のわがまま娘ナイリ・桜一花、アノウドの侍女の白華れみ、ナイリの侍女の野々すみ花天宮菜生などが目立つほうだろう。またこの作品で退団の舞城のどかは、しなやかで悩ましいダンスを見せてくれる。最近のバウなどで活躍した花野じゅりあ、初姫さあや、華耀きらり、華月由舞、月野姫花などが、踊り子や宮廷の女というアンサンブル扱いなのがもったいない。

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 専科やベテラン勢は太守の星原美沙緒、フランス人軍事顧問の夏美よう、ナイリの乳母やアラビアの歌手の絵莉千晶、太守夫人の邦なつきなどが要所要所を引き締めている。

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 この作品は、中身は原作が史実だけに説得力があるが、結末にやや拍子抜けの感がある。その大きな原因は見せたいテーマと結果のズレだろう。ドラマの方向性としては、宗教も思想も違うトマスとアラブ世界が、人間と人間、個と個として向き合うなら、そこに友情も愛も生まれるのだという流れに観客を導きながら、いちばん肝心なトマスの危機に際して、友情も愛も無力で、宗教と思想の大きな壁に全員が敗れるという、その空しさに観客はどこか放り出された感覚になるのだ。

 原作をあるテーマで切り取るのはアレンジするものの特権だが、それならそのテーマの──今回なら友情や愛が生み出す力──結実を見せるのが作劇上の礼儀であり、観客への誠意である。できれば史実とは違ってしまっても、友情と愛がトマスを生きのびさせる結末を用意してほしかったし、それならよりいっそう真飛聖のお披露目にふさわしかっただろう。花組の出演者たちの熱演と前向きな姿勢は、最後までなんとか観客を引き込んでおこうと努力しているし、その成果も確かに出ている。だからこそ作・演出家にはあえて苦言を呈しておきたい。(文・榊原和子/写真・岸隆子)

(⇒「パワフルでノリのいいショー 花組『Red Hot Sea』」へ続く。)

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◆宝塚歌劇花組公演◆

宝塚ミュージカルロマン
『愛と死のアラビア』―高潔なアラブの戦士となったイギリス人―
Based on the novel BLOOD AND SAND by Rosemary Sutcliff
Copyright (c) 1987 Sussex Dolphin Limited
Japanese musical performance rights arranged with
Sussex Dolphin Limited c/o David Higham Associates Ltd., London
through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo
原作/ローズマリ・サトクリフ
脚本・演出/谷正純
山本史郎訳「血と砂」(原書房刊)を参照

グラン・ファンタジー
『Red Hot Sea』
作・演出/草野旦

・宝塚大劇場公演(⇒宝塚歌劇団公演案内へ
公演期間:5月9日(金)~6月16日(月)

・東京宝塚劇場公演(⇒宝塚歌劇団公演案内へ
公演期間:7月11日(金)~8月17日(日)

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2008/06/04 14:54:58 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | | トラックバック (0)

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