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2008年6月13日 (金)

中本千晶のヅカ★ナビ!

《上級編》タカラヅカ流 若手育成の秘密

レベル:★★★(上級編)
分野:人材育成
対象:後継者不在に悩める経営者の皆さんも。

月組公演「ME AND MY GIRLの新人公演を観に行った。
新人公演とは本公演期間中に1回だけ、同じ演目を入団7年目以下の若手だけで行われる、タカラヅカ独特の若手育成制度だ。

若手ばかりと侮るなかれ! じつはこの新人公演のチケット、毎回超人気のプラチナチケットとなる。ベテランファンはここで明日のスターの発掘にいそしむのだ。

出演者たちは本公演の合間をぬってお稽古に励み、たった1日の新人公演にのぞむ。
もちろん、本公演の役とは別に、新人公演での役の台詞、歌、振付をすべて覚えなければならない。

お芝居とショーの2本立て公演の場合、新人公演は約1時間半のお芝居のみ行われる。ところが「ME AND MY GIRL」は1本立てだから、覚えなきゃならない台詞や振りの量も2倍だ(実際は一部の場面がカットされた短縮バージョンとなっていましたが)。

しかも、主役のビル(本公演は瀬奈じゅん)がこれまた一筋縄じゃいかない役。
言葉遊びを随所に織り交ぜた早口せりふが多いし、帽子などの小道具を使った技の見せ場も多い。そもそもコメディータッチのお芝居は悲劇よりもずっと難しいはずだ。笑いを取るべきところで客席がシーンとなってしまったときのサムいことといったらない。

今回ビルを演じる明日海りおは、本公演でもジャッキーという大役を演じている。時間との闘いのなかでの精神的なプレッシャーは、はかりしれないものがあるだろう。
案の定、幕が上がるとせりふを間違えてしまったり、小道具を落としてしまったりの失敗続き!

だが、その失敗の処理の仕方がビルそのものだった。
一番の見せ場でしりもちをついてしまい悔しがるチャーミングな明日海りお、いやビル客席は完璧に魅了されていた。

最初は固かった客席の空気がみるみるうちにほぐれていくのがわかった。
出演者たちも、そんな客席から力を得て、のびのびとお芝居をする。幕開き直後は、我が子の学芸会を見守る母親のような気分だったのが、次第にそんなことは忘れ、一観客として、「ひとりのラッキーより、ふたりのハッピー」 の世界に浸った。

タカラヅカに限らず何でもそうだが、舞台に立つ人の緊張感というのは客席にも伝わるものだ。客席の側もその緊張感を受けてしまうから、良心的なファンは学芸会を見守る母親のような気分になる。
だが、それではプロの舞台人とはいえない。まして2000人の大劇場の舞台のセンターに立つ資格はない。
どこかで一皮向けて、舞台上で自由に呼吸し、客席の視線をも逆に自らのエネルギーとして吸収する術を身につけなければならない。

どうやら新人公演というのは、そのための最適の訓練の場なのだ。明日海りおビルも、羽桜しずくサリーも見事にそれをやってのけていた。もちろん、筋金入りのファンに見守られて、という前提つきではあるけれど。

まだ20代、数年の舞台経験しかない若手がたった一人で、2000人余りの観客と対峙するというのは強烈な体験だろう。だが、その体験を乗り越え、自分の血肉とした者だけが、トップスターという特別なポジションへの切符を手に入れることができるのだ。

会社組織でいうなら、未来の幹部候補生に新規プロジェクトのリーダーを任せるのと同じだな。
うまくできているなあと改めてそのシステムに感心した。

そして観客だった私は今日、スターが再生産されていく貴重な瞬間を目の当たりしたのかもしれない。
これぞ新人公演の一番の醍醐味。みんなその瞬間を見守りたくて、こぞって劇場に押しかけるのだろう。

久しぶりに新人公演を体験して、そのチケット争奪戦の恐ろしいほどの激しさの理由を改めて理解した気がしたのだった。(中本千晶

☆ステップアップのための宿題☆
元・宙組トップスターの貴城けいも、新刊『宝塚式「美人」養成講座』(講談社)のなかで若手の抜擢について、
「最初はうれしさでいっぱいになります。でも、すぐにそれを軽く越えるほどの、大きな大きな不安が襲ってきます。それでも、それを乗り越えるのが、抜擢された生徒の役目です」
と言い切っています。華やかな舞台の裏にある、タカラジェンヌの地道な努力と徹底した自己管理ぶりを垣間見られる1冊です。

★中本千晶さんの新刊情報★
宝塚読本」ふたたび?!今度は「文楽」です。
熱烈文楽(三一書房/価格1,890円)


「宝塚ファンと文楽ファンの違い」「エリザベートを文楽でやると?」など、宝塚ファンも楽しめる内容満載です(笑)

詳しい本の内容はbook.asahi.com でチェック!

投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2008/06/13 11:00:00 中本千晶のヅカ★ナビ! | | トラックバック (0)

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