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2008年7月21日 (月)

榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー

名作の魅力を再発見 宙組『雨に唄えば』

宙組梅田芸術劇場メインホール(7月5日~21日)
『雨に唄えば』

 再演物というのは、初演が好評であればあるほど、新たに演じる役者にとっては大きな挑戦となるものである。だが観る側にしてみれば、同じ骨格を異なる肉付けで示されることで、その作品のもつ本質を別の角度から眺めることが出来る。梅田芸術劇場で上演中の宙組公演『雨に唄えば』は、宝塚版の初演(安蘭けい主演/03年、日生劇場)でコズモ・ブラウン役だった大和悠河が今度は主人公ドン・ロックウッドに扮し、安蘭とは全く別のドンを作り上げている。それはコズモ役の蘭寿とむ以下も同様で、出演者の一人ひとりが工夫を凝らし、いまの宙組ならではの舞台に仕上がった。

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 物語の大筋は、ジーン・ケリードナルド・オコナーの出演で有名な映画版(52年)とほぼ同じ。おなじみのナシオ・ハーブ・ブラウンアーサー・フリードの軽快な音楽は、どれも耳に心地よいものばかりで、また名曲「SINGIN' IN THE RAIN」に乗せてジーン・ケリーがどしゃ降りの中で踊り歌うシーンは、本作でも健在。本水が勢いよく降る中、大和は傘を小道具に、歌、ダンス、タップと奮闘している。

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 舞台は1927年のハリウッド。無声映画の黄金時代で、中でもドン・ロックウッド(大和)とリナ・ラモント(北翔海莉)の美しいコンビが人気を誇っていた。ファンたちは二人が実生活でも恋人同士と信じ、少々抜けているリナ自身もそう思っていたのだが、ドンはそれもスター稼業のうちと仕事をこなしていた。幼なじみでピアニストのコズモ(蘭寿)だけには本心を見せるドンだったが、ある日、駆け出しの舞台女優キャシー・セルダン(花影アリス)に出会ったことで、忘れかけていた演技への情熱を思い出す。その頃、世間では初のトーキー映画が大ヒット。撮影所長のシンプソンも、ドンとリナの最新作をトーキーで撮ることに決める。だが問題はリナ。悪声の上に歌えない彼女を使わなければ、ドン&リナのゴールデンコンビは成立しない。ドンとキャシーの恋の行方は、そしてドンのトーキー映画は果たして完成するのか…。

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 大和のドン・ロックウッドは、金髪にスラリとした容姿で、ひと目で映画界のスターと納得。序盤は虚像ばかりの芸能界への倦怠を感じさせるが、キャシーに出会った頃から、あえてしまい込んでいた本来の誠実さが徐々に顔をのぞかせる。前回の安蘭のドンは、成熟した俳優がキャシーという存在によって失くしていたピースを取り戻す物語だったが、大和のドンは、まだ成長途中の青年に見えるところが面白い。彼とキャシーは、たまたま芸能界のトップとスタートラインという差こそあれ、どちらも“本当の自分”を求めている若者のように思える。だからこそ、ドンとコズモ、キャシーの三人で新作の案をあれこれ考える場面で、「僕はまだ役者じゃない」と呟くドンのセリフが生きてくる。そして注目の「SINGIN' IN THE RAIN」のシーンでは、雨を顔に受けながらキャシーを想って歌い踊るドンに、こちらまでつい笑顔になってしまうのだ。

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 ドンとコズモの関係性も、今回は新たな面が感じられる。コズモ役の蘭寿は、男役の色気を抑えて、彼女のもうひとつの魅力である温かさを前面に出した役づくり。明るいが落ち着いた雰囲気で、ドンを傍らで見守るコズモとなった。随所でコミカルな動きのなかにドンへの友情をにじませるのがさすが。元々は二人でボードビルをやっていたという過去を思わせる「MAKE'EM LAUGH」のシーンは、大道具や小道具をフルに使った楽しい場面。アンサンブルも見事な連携プレーを見せ、圧巻の一言だ。ただ、重めのダンスが得意な人だからか、カウントが遅れ気味なのが少々気になった。こういう軽妙な場面は、大げさなほど巻いていくほうが観客もさらに乗せられるだろう。

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 キャシー役には、娘役トップ陽月華の休演に伴い花影が抜擢。宝塚らしいクラシカルな容姿と透き通るような歌声、さらにタップの実力もしっかりと見せて健闘している。特にキャシーが歌う「YOU ARE MY LUCKY STAR」や、劇中映画の宮廷物の吹き替えの声などは、そのきらめきに逸材の片鱗をのぞかせる。花影の魅力はその硬質な美しさなのだが、キャシー役にはもう少し、女優志願の娘の焦りや不安定さが欲しいように思う。リナ役の北翔が、いわゆる空気の読めない女だが必死に生きている“弱さ”を見せているので、ラストでドンたちがリナを追い払うシーンでは、ついリナのほうを可哀想に思ってしまうのだ。昨年の外部出演『ALL SHOOK UP』では、娘役の枠から逃れた演技で役者としての技量を示しただけに、もう一歩が惜しいと感じた。

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 そのリナを演じる北翔は、先に述べたように“ただ美しいだけで声と頭の悪い女”ではなく、“勢いで美しく見せ、なおかつ超ポジティブな女の子”にシフトしてみせた。元々の声が悪いというよりも、発声の汚さも気にしないダイナミックな子という風で、それがかえって魅力的。ドンに厭われても挫けず、彼がキャシーに惹かれていると知って落ち込む「WHAT'S WRONG WITH ME?」などは、笑わせつつ観客の共感を誘う。さらに発声法を習うシーンや撮影のシーンなど、ほとんどの場面でコメディリリーフぶりを発揮。時々男役の声で食って掛かるなど楽屋落ちも見せつつ、確かな演技力で物語を彩った。

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 その他、個性的な登場人物たちも多く登場。まず映画コラムニスト、ドラ・ベイリーの鈴奈沙也は、テンポよく登場人物を紹介しつつ、ミーハーな目線で賑やかに物語を展開。ドンとリナという二大スターの間に挟まれて右往左往する撮影所長のシンプソンは、天羽珠紀。ダンディだが中間管理職にありがちなペーソスもあり、いつも役づくりの厚みに感心させられる。今回は役柄上やらない得意のタップを、チラリと見せる演出が粋。スタッフのウィリーを演じるのは球洲春。オカマキャラで賑やかな撮影現場でアクセントとなる一方、二役の俳優のシーンでは「酒場の男」をニヒルに演じてみせる。

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 美羽あさひはリナの親友で映画界のアイドル、ゼルダ。リナ同様アタマのカラッポな女優をデフォルメして演じた。ダンスシーンでのアメリカンな色っぽさはこの人ならでは。映画の宣伝マン、ロッドは十輝いりす。長身にゆるくパーマをかけた髪がよく似合い、当時のファッションやタキシードも着こなして目を引く。課題だった滑舌もグンとよくなり、テキパキと裏方をこなすセリフのないシーンでは、やり手の宣伝マンらしさをにじませて見惚れてしまうほどだ。

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 意外な配役が、映画監督ロスコー・デクスターの七帆ひかる七帆は眼鏡とパーマにヒゲという扮装で、上層部に逆らえない中年の監督像を、これまでの二枚目ぶりからは想像できないほどキッチリと演じてみせた。見せ場は撮影現場でのリナとの攻防で、言うことを聞かないリナに青筋を立てつつ、セリフを拾うのに四苦八苦する姿には客席も爆笑。今後はまた二の線が多くなるだろうが、この役を経験したことは貴重な糧となるはずだ。

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 リナに正しい発声を教えるボーカル・コーチのミス・ディンスモアには大海亜呼。こちらはリナが悪戦苦闘するシーンだが、始めは根気よく教えるものの、だんだんリナの酷さに冷静さを失う様子がおかしい。劇中映画の敵役と、キャシーを見出す若手の映画監督シドの二役は春風弥里。最近成長著しい春風だが、今回も色敵風の悪党とキャシーを気遣う若手監督を的確に演じ分けた。ショーでの笑顔にも頼もしさが加わって、これからますます気になる存在。また、発声法の先生は鳳翔大。レッスンに来たドンとコズモを相手に、公演半ばからは毎回アドリブの押収が加わって、大いに客席を沸かせている。フィナーレまでキャラクターに成りきる、その姿勢が好ましい。

 下級生では、ボーカル・レッスンで絶妙な間を見せた鳳樹いち、やんちゃなスタッフの蒼羽りくが印象に残った。

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 物語は耳なじみのいい名曲の数々と、笑いに次ぐ笑いのうちに、いかにもMGMミュージカルらしい大団円が待っている。だがこの作品が何十年も観る者を惹きつけるのは、それだけではない。「自尊心を大切に生きてきたつもり」が毎日をなんとなく過ごしているドンと、「舞台役者は気品と尊厳が大事」といいつつ雑多な仕事をせざるを得ないキャシーとが出会い、互いの中に自分を見つけることで、ぶつかり合いながらも引き寄せられてゆく。そこにシビアで普遍的な相克があるからこそ、ラストシーンで観客は心から温かい気持ちに包まれるのである。安易なハッピーエンドが溢れかえっている昨今(宝塚も例外ではない)、改めて本作の魅力を再確認する結果となった。

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 最後になったが、演出の中村一徳は本作(初演も)や『ファントム』(04、06年)など海外作品の演出に冴えを見せている。日本では多くの翻訳作品が上演されているが、原作の良さを損なわい公演は、率直に言ってまれ。その惨状のなかで、派手なアレンジはないものの、ポイントを押さえて構成した中村の手腕は高く評価したい。

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 さて、楽しい芝居の後に、華やかなフィナーレが付くのが、宝塚のお楽しみだ。ショー作家としても活躍する中村はその辺りを心得ていて、劇中の名曲をリフレインして再構成。まずは先ほどまで中年の監督だった七帆が扮装を解いて、十輝とシンメトリーに美形ぶりを競う「GOOD MORNINGからスタート。そこへ北翔が男役に戻って「WHAT'S WRONG WITH ME」を本来の美声を響かせながらメインに入ると、すっかり宝塚モードに。

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 蘭寿が明るい笑顔で美羽と華やかに踊る「LUCKY STAR」に続いて、今度は過去の宙組のショーから「TEMPTATION」のシーンを。黒エンビを着た大和、蘭寿、北翔以下個性豊かな男役たちが、掛け声と共に踊る様子は、男役ならではの魅力を満喫できる。

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 淑女たちを背に再び蘭寿美羽「SINGIN'IN THE RAIN」を歌い、ラストは「YOU STEPPED OUT OF A DREAM」に乗せて、大和花影のデュエット・ダンス。甘い微笑みをにじませながらを見る大和と、幸せそうに大和を見上げる花影の図。そしてこの曲のタイトルが、宙組版『雨唄』の魅力を端的に表しているだろう。(文・ゲストライター佐藤さくら/写真・岸隆子)

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◆宙組梅田芸術劇場メインホール公演◆
ミュージカル『雨に唄えば』SINGIN’IN THE RAIN
Based on the MGM Film
(Original Choreography by Gene Kelly and Stanley Donen)
Screenplay By BETTY COMDEN and ADOLPH GREEN
Songs By NACIO HERB BROWN and ARTHUR FREED
Produced by Arrangement With Maurice Rosenfield, Lois F. Rosenfield and Cindy Pritzker, Inc.
Music Published by EMI Robbins Catalog Inc.
“SINGIN’IN THE RAIN is presented through special arrangement with Music Theatre International (MTI), 421 West 54th Street, New York, New York 10019 - tel.: (212) 541-4684,
www.mtishows.com

演出:中村一徳
場所:梅田芸術劇場メインホール

公演期間:2008年7月5日(土)~21日(月・祝)

※公演の詳しい情報は⇒宝塚歌劇団公演案内ページ

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投稿者 宝塚プレシャススタッフ 2008/07/21 0:52:43 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | | トラックバック (0)

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