榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー
星組『スカーレット・ピンパーネル』は上質のエンターテインメント
星組宝塚大劇場公演
『スカーレット・ピンパーネル』
大作ミュージカル『スカーレット・ピンパーネル』の初演に挑んで、星組が絶好調である。
フランク・ワイルドホーンの楽曲と小池修一郎の演出という才能の組み合わせは、前回の『NEVER SAY GOODBYE―ある愛の軌跡―』(06年)で実績を残しているが、今回もまたこれからの宝塚歌劇団の財産となるような、上質のエンターテイメントを生みだした。とくに宝塚用のオリジナル部分を加えたことなどを含めて、小池修一郎のアレンジャーとしての傑出した才能が、この舞台の成功の大きな要因であることはいうまでもない。
優雅な貴族の生活と鬼気迫る革命の現実、コメディタッチの冒険活劇とリアルな男女の心理描写、その双方がドラマに無理なく組み込まれていて、原作本「紅はこべ」シリーズからルイ・シャルルの部分など新たなシーンを加えて、ブロードウェイ版とは異なる宝塚の『スカーレット・ピンパーネル』を生みだした小池修一郎の手腕は高く評価されていいだろう。そして安蘭けいや遠野あすか、柚希礼音をはじめとする星組全員の真摯な取り組みと熱意が、この作品をすみずみまで楽しめるものにしている。

物語の舞台は1794年のイギリス。フランス革命後の混乱の中で、無実でありながらギロチンの刃にさらされる貴族たちを救おうと活躍するのが、貴族パーシー・ブレイクニー率いる秘密結社スカーレット・ピンパーネル団。だが、首領のスカーレット・ピンパーネルを捕らえようと暗躍する革命政府の全権大使ショーヴランとパーシーの間で、知と策略を競う闘いが繰り広げられる。
また、パーシーには愛し合って結婚したマルグリットという元女優の妻がいるが、彼女はかつてフランス革命の同志としてショーヴランと手を結んでいた過去があった。そのマルグリットを利用して、スカーレット・ピンパーネル逮捕を狙うショーヴラン、妻に疑いを向け苦しむパーシー、そしてパーシーへの愛とショーヴランからの脅迫に苦しむマルグリット、三人の愛のもつれと駆け引きを秘めながら、物語は進んでいく。
安蘭けいのパーシー・ブレイクニーは、まずヒューマンなバックボーンが感じられるのが素晴らしい。危険も省みず、正義のためにドーヴァー海峡を渡るパーシーの貴族的な魂を、芯の強さと温かさを感じさせながら生きている。
安蘭のために提供された楽曲「ひとかけらの勇気」は、メロディラインのわかりやすさもあって聴くものの心に勇気と志を湧き上がらせてくれる。また「祈り」のようなしみじみした楽曲から、「炎の中へ」のようなアグレッシブな歌まで、求心力のある歌唱で観客を引っぱっていく。妻のマルグリットを愛するあまり揺れる心では男役の色気を感じさせる。グラパンへの変装では安蘭ならではの自由自在さが生きる。
遠野のマルグリットは、パーシーやショーヴランと対峙するヒロインとしての存在感がある。元女優であるという華やかさやパーシーを愛する心だけでなく、秘密を抱えている苦悩や葛藤がよく見える役作り。最近続いている成熟した女性役の延長ラインで、無理のない等身大の女性像に作り上げている。
歌唱では「あなたを見つめると」や「忘れましょう」などを感情を込めて歌っていて、ソプラノ部分に伸びがある。少年ルイ・シャルルによって夫への疑いを払拭するシーンのいじらしさには胸をうたれた。唯一気になったのが鬘で、カールの強すぎるものは表情を老けさせるので、できれば一考をのぞむ(初日近くの所見)。
ショーヴランの柚希礼音にとって、この作品に出演したことは大きな財産だろう。まず歌の表現力と技術が大幅にアップした。また、敵とはいえ革命のために生きる人物としての説得力が見えて、物語に深みを加えた。
この作品のテーマとしての“愛”は、パーシーとマルグリットの“信頼という大きな愛”なのだが、ショーヴランのマルグリットへの執着ともいえる“悲しい愛”もしっかり描かれていて、その思いを柚希ショーヴランはきちんと弱さや人間くささへとつなげている。その心情を踏まえて歌うので、「鷹のように」や「栄光の日々」などのナンバーは心に届く熱唱となった。
そのほかの登場人物は、大きく分けるなら、パーシー派とショーヴラン派がいる。まずはパーシー派から触れていこう。
組長の英真なおきは、パーシーの手引きをして処刑されるサンシール侯爵で革命の残酷さを見せ、イギリス国王のプリンス・オブ・ウェールズではカリカチュア寸前のギリギリな笑いを生んでいる。
妻子を逃亡させるドゥ・トゥルネー伯爵の紫蘭ますみは、少ない出番でも身分や重みを感じさせる。その妻子であるドゥ・トゥルネー伯爵夫人・万里柚美とシュザンヌの琴まりえは、死体から甦って華やかな母娘。
マルグリットの弟で、パーシーたちと行動をともにするアルマンは和涼華で、品のよさやおっとりしたところが生きている。その恋人マリーの夢咲ねねは、長身というマイナスポイントを上回る可憐さと可愛らしさがあり、ルイ・シャルルを匿う場面などで活躍している。
ルイ・シャルル役に抜擢された娘役の水瀬千秋は、いたいけな王太子でありながら凛とした誇りも見せて好演。シャルルと安蘭のデュエット「ひとかけらの勇気」は、涙を誘ういじらしさ。
パーシーが率いるスカーレット・ピンパーネル団は、イギリス貴族が正義のために闘う気高さがベースにあるうえに、変装の楽しさや令嬢たちとの甘いデュエットなどもあり、見せ場がたっぷり。パーシーと歌う「炎の中へ」や、コメディチックな「男とお洒落」などのナンバーでも、それぞれが個性を打ち出している。
なかでもデュハーストの立樹遥とフォークスの涼紫央は頼もしく気品もあり、こういう役どころに2人がいると安定感が増す。そのほか 彩海早矢、夢乃聖夏、麻尋しゅんといった力のある若手に加えて、紅ゆずると壱城あずさというバウで注目された2人の顔があるのも新鮮。 二枚目揃いのスカーレット・ピンパーネル団に混じって踊る渋いジェサップで楽しませてくれるのは天緒圭花。
令嬢たちには琴まりえを中心に華美ゆうか、音花ゆり、純花まりい、妃咲せあら、蒼乃夕妃、稀鳥まりやという 華やかな娘役が揃っていて、ブレクニー邸の庭での恋人たちの語らいは、7組のカップルの組み合わせが楽しい。
革命側は、人数は少ないながら強烈な個性派ばかり。指導者ロベスピエールはにしき愛、徹底的な憎まれ役でショーヴランへのプレッシャーとしての役割をきちんと務めている。
その配下たち、ピポー軍曹の美稀千種、 メルシェ・祐穂 さとる、クーポー・鶴美舞夕は、やや人の善さも見せながらこの作品のいいスパイスになっている。
ロベスピエールからルイ・シャルルを預かる靴屋のシモンには美城れん、妻のジャンヌには朝峰ひかり、2人のさりげない酷薄さが場を引き締めている。
この作品の見せ場の多くが、パーシーと彼の率いるスカーレット・ピンパーネル団の活躍だが、それと同様に、いやそれ以上に革命派の市民たち、つまり群衆の力がこの舞台を支えている。
オープニングの「パリ、1794」での迫力ある群唱と群舞は、この作品の背景にある革命という異常な状況と鬼気迫る民衆の恐さを正面から見せてくれるし、その後も、パリ街頭やコメディ・フランセーズなどで、パーシーたちの置かれている状況の危機感を煽ってくる。
そんな民衆役は、一輝慎、水輝涼、 碧海りま、美弥るりか以下の男役たちと、百花沙里、毬乃ゆい、涼乃かつき、星風エレナ、梅園紗千、花愛瑞穂以下の娘役たち。場面によっては美城れんや朝峰ひかりに研1生たちまで加わって、すさまじいエネルギーを見せてくれる。まさに民衆の存在こそ『スカーレット・ピンパーネル』の世界を形づくるためになくてはならない存在であり、主役3人だけでなく、それを取り囲む全ての人々にもドラマがあり命があるという、ごく当たり前のことを確かな存在感で示してくれるのだ。
本編の中身だけでもミュージカルの醍醐味を見せてくれるうえに、贅沢にもフィナーレのショーまで付くのが宝塚の素晴らしさで、とくに目新しい展開はないが、定番をはずさず楽しませてくれるところは、さすが演出のプロ小池修一郎である。振付は御織ゆみ乃、もっと大胆な振付もできる人だが、今回はややスタンダードにおさめている(書き忘れたが本編1幕を担当した桜木涼介の新鮮で自由な振付に拍手を送りたい)。

そのフィナーレのオープニングは柚希礼音、銀橋で「ひとかけらの勇気」を歌う。ショーヴランから離れた穏やかな表情でていねいに歌っている。
続くロケットはスカーレット・ピンパーネルにふさわしい赤にフリルの衣装で振りもシャープ。
大階段上に安蘭けいが登場すると、百花沙里以下24名の淑女とのダンスが優雅に繰り広げられる。そのまま本舞台に降りて踊る美女たちの背後に、今度はサーベルを手にした男役陣が登場。柚希礼音、立樹遥、涼紫央を芯に、迫力あるサーベルダンスは迫力満点。初日あたりはまだバラつきも見えたが、時間とともに揃っていくだろう。
そして主演コンビ安蘭けいと遠野あすかによるデュエット・ダンスは、役柄そのままにドラマのように感情が伝わってくる。
エトワールは音花ゆり。気持ちの良いソプラノを聴かせてくれる。ダブルトリオの男にいる最近活躍の天寿光希と真風涼帆が目を引く。そして物語そのままに、豪華な衣装でパレードに並ぶ全員の顔は、この作品を演じることへの手応えで輝いている。
安蘭けい・遠野あすかが率いる今の星組にとって、この初演を成功させたことは、これからの大きな誇りと糧になるだろう。同時に、この作品はエンターテイメントを全員で作り上げるという宝塚という劇団、またファンタジーを成立させるその様式の素晴らしさなどを、あらためて感じさせてくれた。そしてなによりも、面白い作品とは優れた脚本・演出の上にこそ築かれるという、いたってシンプルな結論にも思い当たった。この作品の成功を刺激に、宝塚の公演全体がさらにレベルアップすることを楽しみにしている。(文・榊原和子/写真・岩村美佳)
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◆宝塚歌劇星組公演◆
三井住友VISAミュージカル
『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』
潤色・演出:小池修一郎
宝塚大劇場
公演期間:2008年6月20日(金)~8月4日(月)(⇒宝塚歌劇団公演案内へ)
東京宝塚劇場
公演期間:2008年8月22日(金)~10月5日(日)
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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ 2008/07/17 8:57:28 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | Permalink | トラックバック (0)
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