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2008年9月14日 (日)

榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー

男のロマンを描き出す 雪組『マリポーサの花』

雪組宝塚大劇場公演
『マリポーサの花』

⇒「ソロモンの指輪」より続く)

 『マリポーサの花』は、どこか懐かしさを感じさせる正塚晴彦作品である。10年くらい前までよくあった作風で、進行が数人のダイアローグにまかされていて、観客に不親切である。だが主人公の心理にうまく乗ることができれば、彼がたどる道のりの重さに見合うだけの何かを必ず発見させてくれる。その何かとは、いたってシンプルな「今、生きてここにいる」喜びだったり、「明日も生きていこう」という意志だったりするのだが。

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 この作品の主人公ネロは、おそらく宝塚史上、そして正塚作品史上でも稀にみる男くささである。強くて熱くて武骨で、信じないと口にしながら理想を、人間を見捨てられず、今自分にできることはこれしかないと命を賭して戦いに赴いていく。ネロはもちろん雪組主演男役の水夏希への当て書きなのだが、なるほどは現代物の男性を演じさせると意外と辛めのテイストが表に出る(コスチュームものでは甘めにもなるのだが)。その個性を生かして、ハードボイルドタッチのストーリーにメロドラマな人間関係を絡め、最終的には「男のロマン」を描き出す“正統派の正塚作品”に仕上がっている。

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 背景となるのはカリブ海にある南米のとある小国。かつて民主化への革命があり、ネロは今の政権作りのために特殊部隊で戦った。だが大統領の独裁により国内には不満が沸き上がり、今はクラブを経営するネロも同士だったエスコバルも、鬱積する思いを抱えてながら日々を送っている。そんなネロが、農場を経営するイスマヨールと知り合い、長年の夢である事業を起こす計画に着手する。また、イスマヨールの娘のセリアに運命的な愛を抱き、その弟のリナレスによって再び戦いの場に身を置くことになっていく。

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 水夏希にとって、ネロはまちがいなく当たり役の1つになるだろう。黒めのメイクに縮れた髪、白や黒のスーツ姿が一分の隙もなくきまって、触れれば切れそうな鋭さを秘めている。ネロはクラブ経営と並行して密輸も行うアウトローだが、荒れ果てた祖国を建て直そうとしたり、革命の血にまみれた自分の過去を傷と感じるピュアな魂も持っている。そんなネロが唯一彼にできる愛の表現として、“戦うこと”を選ぶまでのドラマを、は心理のひだを積み重ねながらきめ細かく描き出す。愛するセリアや親友エスコバルとの別れも胸に迫るが、ならではの最大の見せ場は戦闘シーンだろう。アクションスターも顔負けのムダのない動きと凄まじい気迫は、リアルであると同時にひたすらかっこいい。このシーンに代表されるように、ネロで水夏希が到達した“男役としての純度の高さ”は感動的ですらある。

 ネロと出会い、彼を愛するセリアは白羽ゆり。正塚作品ではいつも大人びたヒロイン像を与えられる白羽だけに、今回も家族思いで情の深い女性像を、温かさを感じさせながら見せてくれる。ラテンの女性らしい黒めの化粧も似合って、裕福な家の娘の気品もあり、ネロが一目惚れするのも納得の美しさ。終盤、戦場に行こうとするネロを察知し全身で愛をぶつけて止めようとするシーンは、迫力と強い愛情に胸を打たれる。メロディラインの難しい2つの歌の歌いこなしもみごと。

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 彩吹真央のエスコバルは、ネロと戦場をともに生き抜いて、ずっとそばにいた「たった1人の友だち」で、仕事上の片腕でもある。そんな間柄だからこそのぶっきらぼうな物言いとか、ネロに冷静に事態を確認する姿が、大きな信頼感と安心感を呼び起こす。ともに戦場に出かける場面では静かな決意が頼もしく、そのだけに港の場でネロを逃がそうとするとき噴出する激しさが悲しい。エスコバルのテーマソング「俺は生きて何を」も、心に沁みる絶唱になっている。

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 リナレスの音月桂は、この舞台で役者として深まった。恵まれて育った世間知らずの青年が、正義感だけで行動しようとするときの狂気を全身に漂わせている。また、穏やかで確信的なセリフ回しがかえって不気味さを感じさせる。リナレスの逮捕がネロを戦いへと動かす要因になるのだが、それにふさわしい純粋な危うさがある。クラブで歌う「sabor a mi」は、気持ちいい声でのびのびと聞かせている。

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 ネロは、この物語でいろいろな敵と戦わざるを得なくなるのだが、その1人、CIAのロジャーは凰稀かなめ。出番が少ないわりにキーパーソンになる存在で、表と裏がある難しい役。通信社の記者を装っているときの軽薄さと、CIAの冷酷でふてぶてしい面という変化をうまく出している。戦場でチャモロの脱出を知って見せる目の怖さや、戦場のダンスなどに男くささものぞいて、男役としての幅が広がった。

 緒月遠麻のフェルッティは、ネロの商売を狙うアメリカンマフィア。最初の登場での大物という部分が、じょじょに化けの皮がはがれて小物化してくるのが面白く笑いを誘う。だが人の善さを見せる方向にいきやすい芸質なので、マフィアの根にある酷薄な部分を大切に、さらにネロたちの脅威となってほしい。その子分役の大凪真生紫友みれいも面白いキャラになっていて、大凪はつねにキレてるところが怖いし、紫友はクレバーでできる子分の怖さを出している。

 ネロたちの力で大統領になったサルディバル・未来優希は、野心と打算だけの男のいやらしさを表現。側近の衣咲真音も短い場面だが面白い芝居を見せる。前のほうで登場する大統領護衛官の奏乃はるとは知的な役作り。

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 ネロの味方で、彼に大きな影響を与える農場主イスマヨールは未沙のえる。正塚作品の常連であるこの人の身体に備わった日常感やユーモアが、ハードボイルドな展開のなかで息抜きとスパイスになっている。下男のイヴァン・沙央くらまとの「馬」のやりとりも、未沙ならではの遊びかたで、沙央もよくついていっている。屋敷のメイドのシーナ・山科愛(これが退団公演になる)はテンポが緩やかで愛らしく、沙央の明るさとともにホッとさせる存在。イスマヨールの“実業”と父としての愛、美しいセリア、穏やかな暮らし、ネロが憧れて守りたい平和がここにある。

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 ネロの店には、実直な支配人の飛鳥裕を筆頭にたくさんの人々が働いている。エスコバルに熱をあげるアリシア・天勢いづるが、カフェでエスコバルにアプローチするシーンは、毎回笑いを取っている。そのほかにダンサーのリタ・麻樹ゆめみを筆頭に、大湖せしる、愛輝ゆま、蓮城まこと、香綾しずる、梓晴輝、涼花リサ、晴華みどりなどがいる。

 リナレスの仲間で大学で騒ぎを起こすラファエルは彩那音、出番は少ないが正義感と若さで印象づける。大学生に谷みずせ、真波そらなどの男役たちや、舞咲りん、神麗華などの娘役たちが登場して学生たちの怒りを訴える。そんな学生を逮捕させる意地悪い教官を早花まこが強烈に演じている。

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 ネロとエスコバルが助けに行く相手、革命家のチャモロは大湖せしる。小柄なので貫禄に欠けるが最後の演説はなかなかパワフル。その仲間たちは真波、谷、衣咲、葵吹雪、涼瀬みうと、香音有希、桜寿ひらり、冴輝ちはや、大澄れいなどが扮しているが、戦いの終盤で次々に撃たれていくスローモーションは凄絶。香音がネロをかばって撃たれる姿など涙なしには見られない。

 リナレスの恋人であるビアンカには新人娘役の舞羽美海が抜擢され、まだセリフは硬いが目を引く華やかさがある。カフェの店員の大月さゆは黒塗りが似合って可愛いが店員としては挙動不審気味か。ほかにちょっとした目立つ役では、イスマヨールを怒らせるビジネスマンの柊巴(この人も退団公演)、その助手の愛原実花。大統領テロに失敗するミゲルの真那春人、ホテルのベルガール・花帆杏奈やドアマン・葵吹雪、脱出を手伝う船長谷みずせ。 医者の凛城きらなどが目に入る。

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 この作品では、ダンスシーンが何カ所かうまく取り入れられているが、まだ少ない気がする。ダイアローグの邪魔にならない程度に増やして、単調な場面のアクセントにしたり、出番の少ない出演者たちを踊らせる演出もありではないだろうか。そんなダンスシーンのなかで、街路のコロスは、正塚作品らしい男役の見せ場で、柊、沙央、大湖、愛輝、香綾、凛城が伊賀裕子振付でしゃれた雰囲気で踊っている。

 また今回、クライマックスで見せる戦闘シーンの平澤智の振付は圧巻。ダダダダと絶え間なく響く機銃音の中で機械的に動く兵隊たちは、その背後にある国家そのものの恐ろしさを、無機的なフォーメーションで伝えてくれる。その中を戦いのプロとしてひりひりするような緊張感で走り回る彩吹、彼らと行動をともにするチャモロの仲間たち。この戦闘シーン全体が、雪組男役たちの鍛えられた身体と気迫が生みだす名場面である。

 そして、戦いに続くネロとエスコバルの別れ、また何カ月かあとのイスマヨール邸の場までの展開は、観客がこの物語に立ち合ってよかったと思わせてくれるカタルシスに満ちていて優しい。これだから正塚作品は病みつきになるのだろう。

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 本編のあとに続くフィナーレも正塚晴彦演出だが、こちらは平板という印象。音月桂中心の男役のラテンや、彩吹真央と娘役、白羽ゆりと娘役の男前なダンス、また総スパンの水夏希を中心にした男役ダンスなどがあり、それなりに楽しめるが、芝居と同じ演出家だと物語の色を意識して作るせいか、フィナーレらしい目を奪うような華やかさに欠ける。日常感あふれる正塚作品だからこそ、180度離れた非日常をフィナーレで見せてほしい気もするのだ。

 そんななかで唯一、白羽のデュエットダンスは新鮮だった。銀橋で腕をからませただけで反り身になる白羽を支える。その美しいポーズは息の合ったコンビならではのワザで、本舞台でも流れるようなリフトを2回と見応え十分だ(平澤智振付)。このシーンがあるせいでフィナーレに大きなアクセントがついた。

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 そんな点も含めて、改めてこの上演形態の問題点を最後に書いておきたい。
 ショー30分、芝居+フィナーレで2時間という形の大きな欠点として、観客の生理を無視していることがある。週に4回ある11時公演を想像してほしい。観客は11時半という早い休憩時間に、欲求もないのに食事やトイレを強いられることになる。そしてそのあとは逆に欲求に耐えながら、2時間のあいだ座席にしばりつけられるのだ。

 宝塚歌劇の観客は女性や年輩者が多い。そのことを思えば、観客生理にもう少し想像力を働かせるべきだろう。終演後のトイレが休憩時より長蛇の列になっているのは初めて見た。冬場でなかったことが幸いだった。また、この上演形態には経済効果上どんな勝算があったのかはしらないが、劇場内の飲食店や飲み物販売などへの売上減は考えていなかったのだろうか。2時間と聞いてトイレに行かないように食事や飲み物を控える観客も少なくなかったはずだ。

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 宝塚歌劇は95年の間に数え切れないチャレンジや改革を行ってきた。その前進するエネルギーには深い敬意を表するけれど、この上演形態がこれまで定着してこなかった意味をもう一度考えてほしい。客足に影響し、作品の印象まで変えてしまう上演形態。その問題点を考慮したうえで、今後の方向性を考えてもらいたいと思う。(文・榊原和子/写真・岸隆子)

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◆宝塚歌劇雪組公演◆

ショー
『ソロモンの指輪』
作・演出:荻田浩一

ミュージカル
『マリポーサの花』
作・演出:正塚晴彦

宝塚大劇場
公演期間:2008年8月8日(金)~9月22日(月) ⇒宝塚歌劇団公演案内へ

東京宝塚劇場
公演期間:2008年10月10日(金)~11月16日(日) ⇒宝塚歌劇団公演案内へ

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投稿者 ベルばらKidsぷらざスタッフ  2008/09/14 10:15:48 榊原和子の宝塚初日&イベントレビュー | | トラックバック (0)

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